化学物質系分野
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■ 化学物質系分野
食品添加物は、食品を加工する際、保存性を高める(酸化防止剤としてのビタミンC等)、色、味、香りを良くする(かまぼこの赤い色、ソフトドリンクの香り等)、(ソース等に)とろみをつける等のために添加される。豆腐の製造に必要な「にがり」も食品添加物であり、かんきつ等の輸送中のカビ発生防止のために使用される農薬も日本では食品添加物として規制されている。
食品添加物には、指定添加物(リスク評価を行った上で指定される。)、既存添加物(以前から日本で広く使用されており、長い食経験があるもの。にがり、カラメル等。既存添加物の項参照)、一般飲食物添加物(一般の食品を、添加物として使用するもの。いちご果汁や寒天等)、天然香料(動植物から得られる天然物質で、食品に香りをつける目的で使用されるもの。バニラ香料、ジンジャー等)がある。
厚生労働省は、使用が認められた食品添加物について、国民一人当たりの摂取量を調査して、許容一日摂取量(ADI)の範囲内であることを確認している。また、使用した食品添加物は表示が義務付けられている。
厚生労働省が安全性と有効性を確認した食品添加物。指定添加物以外で使用できる添加物は、既存添加物、天然香料、一般飲食物添加物のみ。
新たに指定される食品添加物は、メーカーが厚生労働省に申請し、厚生労働省は、食品安全委員会が行うリスク評価を受けて使用基準を設定して食品添加物として指定する。食品安全委員会は、動物又はヒトでの安全性試験の結果に基づいて無毒性量(NOAEL)を求め、推定一日摂取量と比較して許容一日摂取量(ADI)の特定が必要かどうかを検討し、必要な場合にADIを設定する。
我が国の食品添加物の指定制度は、長い間、対象を化学的合成品に限っており、天然物から取り出された食品添加物は指定制度の対象としていなかった。しかし、平成7年に、天然由来の添加物についても厚生労働省が指定する制度になった。このため、移行する時点で販売、製造、輸入、使用されてきた天然由来の添加物が既存添加物名簿に記載され、続けて使うことが例外的に認められた。これら既存添加物については、逐次、規格基準の設定や安全性試験が行われている。
食品添加物の品質確保のために、厚生労働省が、食品添加物の規格、一般試験法のほかに、製造基準(添加物を製造するときに守らなければならない基準)、使用基準(添加物を使って食品を作る時に守らなければならない対象食品や量に関する基準)、表示基準(添加物を使用した製品に表示する内容を決めた基準)等を定めたもの。
食品の原材料中に含まれている食品添加物であって、最終製品の食品に残ったとしても、本来の効果を発揮しないと考えられるもののこと。表示を省略することができる。例えば、保存料(安息香酸)と着色料(カラメル色素)の入ったしょうゆを塗り焼いたせんべいについては、しょうゆの保存料である安息香酸は、せんべいでは保存料としての効果を発揮することはないと考えられるので、キャリーオーバーとなり、せんべいの原材料に保存料の表示をする必要はない。一方、しょうゆの着色料であるカラメル色素は、せんべいの色としてその効果を発揮している場合にはキャリーオーバーとはされず、原材料に着色料の表示が必要となる。
食品の加工の際に使われる食品添加物のうち、次の条件のいずれかに合うものをいい、表示を省略することができる。
1)最終的に食品として包装する前に食品から除去されるもの
2)食品中に通常存在する成分に変えられ、かつ、その成分の量が食品中に通常存在する量を有意に増加させないもの
3)最終食品中に、ごく僅かなレベルでしか存在せず、その食品に影響を及ぼさないもの
例えば、プロセスチーズ製造時に炭酸水素ナトリウム(重曹)を用いたとしても、加熱溶解の工程で大部分が分解してしまうため、最終食品への残存はごく微量となり、重曹による影響をプロセスチーズに及ぼさないため、表示を省略することができる。
食品に香りを着ける目的で添加される物質。
我が国では、香料は食品添加物とされる。合成香料と天然香料の区分があり、天然香料は厚生労働大臣の指定を受けなくても使用できる。
米国の食品に添加する物質に関する規制において「一般に安全とみなされる(Generally Recognized As Safe: GRAS)」物質のこと。米国では、食品に添加する物質は、FDA(米国食品医薬品庁)の許可を受ける必要があるが、GRAS物質である場合はFDAの許可を受けることなく食品に使用できる(FDAへの届出は任意)。
なお、米国の法令(※)において、ある物質が「一般に安全とみなされる」とは、科学的トレーニングを受け、安全性評価についての経験があるとみなされる専門家の間で科学的に安全と判断されること、又は、1958年以前に既に使用実績があることとされている。
(※)
・Federal Food, Drug, and Cosmetic Act, Sec.201(s),409
・Code of Federal Regulations Title21, part 170.30
(参考)Generally Recognized as Safe (GRAS)(FDAウェブサイト)
https://www.fda.gov/food/food-ingredients-packaging/generally-recognized-safe-gras
農作物等に害を与える細菌やカビ、雑草、害虫又はネズミの防除(※)及び植物の生育の調整、収量や品質の維持のために使われる薬剤を「農薬」という。
用途別に見ると、
1)害虫を防除する殺虫剤
2)細菌やカビを防除する殺菌剤
3)雑草を防除する除草剤
4)種なしぶどう等、農作物の生育の調整や発芽抑制等に用いられる植物成長調整剤等がある。
なお、害虫を食べるハチ等の「天敵」や微生物を利用した農薬(生物農薬)は薬剤ではないが、農薬として扱われている。
※ 防除…農薬等により、病害虫や雑草等による農作物への被害を抑えること。
農薬取締法に基づき、農薬の登録を行う制度。農薬登録を受けなければ、我が国で製造、輸入又は販売を行うことはできず、農薬として使用することができない。
農薬登録を受けるためには、農薬の製造者・輸入者は、作物に対する効果(薬効)や悪影響(薬害)のほか、ヒトや家畜に害を及ぼすことがないよう毒性、残留性等に関する様々な資料や試験成績等を提出しなければならない。
食品に残留する可能性のある農薬のヒトに対する健康影響については、食品安全委員会が提出された資料に基づいてリスク評価を行い、厚生労働省がそのリスク評価結果と提案された使用方法を考慮しつつ食品中の残留基準値を設定する。仮に、提案された使用方法で基準値が設定できない場合には、農林水産省で使用方法が見直されることになる。また、環境省では、水質や水産動植物への影響等、環境への安全性に関する基準を設定する。これら全ての基準値が設定でき、農林水産省において、農薬の品質や、農作物への薬害、農薬使用者の安全性等が確認されると、農林水産大臣が農薬登録を行う。
農薬の登録の有効期間は3年で、再登録の申請がなければ登録は自動的に失効する。
農薬の製造者・輸入者は、登録時に定められた使用方法を、製品の容器に表示しなければならない。また、農薬の使用者は表示された使用方法を遵守するよう義務づけられている。
ある国で使用が認められている農薬等であって、その農薬を使用した農畜水産物が他国に輸出される場合に、輸入国における残留基準値の設定を要請することができる制度。
我が国における申請の手続等については、「国外で使用される農薬等に係る残留基準の設定及び改正に関する指針について」(平成16年2月5日付け食安発第0205001号厚生労働省食品安全部長通知)に定められている。
農薬の使用に起因して食品、家畜飼料等に含まれる全ての物質(毒性学的に意味があると見なされる代謝分解物、反応産物、不純物等を含む)を残留農薬という。
農薬は、目的とした薬効を発揮し、徐々に分解・消失するが、収穫までに全てがなくなるとは限らないため、使用された農薬が収穫された農作物に残り、食品として、又は家畜の飼料として利用されることで乳や肉を介してヒトが摂取するおそれがある。農薬の残留がヒトの健康に悪影響を及ぼすことがないように、農薬取締法に基づき、農薬の登録に際して農薬の使用方法等に関する使用基準が定められ、食品については食品衛生法、家畜の飼料については飼料安全法に基づいて設定された残留農薬の量の限度(残留農薬基準値)を超えないよう規制されている。なお、残留農薬基準値を超えた農薬が残留する食品等は、流通、販売等が禁止される。
水生生物が、一定の期間化学物質のばく露を受けた際の生物体内の化学物質濃度を、その期間の周辺水中の化学物質濃度で割った値。 数値が大きいほど、生物体内に濃縮されやすいことを表す。
なお、食物連鎖を通じた生物濃縮とは異なる概念。
農薬には、登録に際して、人間や家畜等への害がない範囲を作物残留等の基準として定め、この基準を超えないように使用方法が定められている。
1.遵守義務(罰則を科す基準)
食用作物や飼料作物に農薬を使用する場合、農薬登録時に定められた基準を守る。
1)適用作物以外に使用しない。
2)単位面積当たりの使用量を上回って使用しない。
3)決められた使用時期以外の時期には使用しない。
4)使用総回数を上回って使用しない。
2.農薬使用者の責務
1)農作物等に害を及ぼさないようにする。
2)人間や家畜に危害を及ぼさないようにする。
3)農作物の汚染が原因となって被害が出ないようにする。
4)農地等の土壌汚染が原因となって被害が出ないようにする。
5)水産動植物に被害が出ないようにする。
6)公共用水域の水質汚濁が原因となって被害が出ないようにする。
英語で「〜の後」を意味する「post-」と、「収穫」を意味する「harvest」が結びついた語句で、一般的に、収穫後に害虫やかび等が発生し、農産物が貯蔵・輸送中に損失するのを防ぐため、収穫後の農作物等に使用される農薬等のこと。日本においては、一部のくん蒸剤等を除き、ポストハーベスト目的で使用できる農薬はない。また、かんきつ類等の保存の目的で使用される場合は、食品添加物として取り扱われ、食品衛生法で規制され、表示が必要となる。
ポジティブリストとは、原則的に使用が禁止されている中で、禁止されていないものを列挙した表をいう。
農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(以下「農薬等」という。)については、平成18年5月にポジティブリスト制度が導入され、残留基準を超えて農薬等が残留する食品の販売等が原則禁止されている。残留基準として、個別に残留基準値が定められていない農薬等については、原則、一律基準(0.01 ppm)が適用される。
器具・容器包装については、令和2年6月から、合成樹脂の原材料を対象に新たなポジティブリスト制度が導入された。
(参考)食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度の概要(厚生労働省ウェブサイト)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/index.html
ポジティブリスト制度においては、残留基準値が定められている農薬等はその基準に基づき規制されるが、残留基準値が定められていない農薬等について、食品衛生法に基づき「人の健康を損なうおそれのない量」として厚生労働省が定める基準に基づき、規制することとされた。この基準を一律基準といい、0.01 ppmが用いられる。ある食品中に、残留基準値が定められていない農薬等が一律基準を超えて残留している場合、原則としてその食品の販売等が規制される。
農薬等の残留基準の策定は、食品安全委員会によるリスク評価に基づいて行われるのが原則だが、ポジティブリスト制度導入に伴う残留基準の設定に当たって、一度に多くの物質に残留基準を設定する必要が生じ、膨大な作業が必要になると考えられたことから、食品安全委員会によるリスク評価を行っていなくとも国際機関や諸外国の基準等を参考にして暫定的に残留基準が定められた。この基準を暫定基準という。暫定基準が定められた農薬等については、厚生労働省からの評価要請を受けて、食品安全委員会によるリスク評価が順次進められており、この評価結果に基づく暫定基準の見直しが進められている。
農薬等として使用された物質が食品中に残留したとしても、「ヒトの健康を損なうおそれのないことが明らかであるもの」として厚生労働大臣が定める物質のこと。カルシウム等のミネラル類、アミノ酸類、ビタミン類等が指定されている。これらの物質はポジティブリスト制度の対象外であり、食品中に残留したとしても、一律基準は適用されない。
農薬等の化学物質について、設定された、又は設定が検討されている残留基準値を基に推定される、理論上最大となる一日当たりの摂取量。コメやだいこんといった食品ごとに、その食品の一日当たりの平均摂取量に、その食品に対して設定されている、又は設定が検討されている農薬の最大残留基準値(MRL)をかけあわせ、農薬の摂取量を試算する。この試算を、基準が設定されている、又は基準を設定しようとする全ての食品について行い、結果を合計して、その農薬の一日当たりの摂取量(mg/人/日)を推定する。最大残留基準値は、理論最大一日摂取量(TMDI)が許容一日摂取量(ADI)の一定割合を超えないように定められている。
農薬等の化学物質について、食品ごとに、一日当たりの平均摂取量にその食品中の農薬等の推定残留量をかけあわせて摂取量を試算し、全ての食品からの摂取量を合計することにより推定される一日当たりの摂取量。各食品における農薬の残留量の推定は、作物残留試験成績、可食部の残留試験成績、調理加工の影響等を考慮して行われる。
理論最大一日摂取量(TMDI)に比べ、より実態に即した推定値と考えられる。
市場で売られている広範囲の食品を対象とし、食品添加物や農薬等が実際にどの程度摂取されているかを把握するために、加工・調理によるこれらの物質の増減も考慮に入れて摂取量を推定する方法。「マーケットバスケット方式」と「陰膳(かげぜん)方式」の2種類がある。
食品添加物や農薬等を実際にどの程度摂取しているかを把握するため、スーパー等で売られている食品を購入し、その中に含まれている食品添加物等の量を測り、その結果に国民健康・栄養調査に基づく食品の喫食量を乗じて摂取量を推定するもの。これを用いて食品添加物一日摂取量調査や食品中残留農薬一日摂取量実態調査を実施している。
調査対象者が一日に実際に食べた食事と全く同じものを分析し、一日の食事中に含まれる化学物質(食品添加物や農薬等)の総量を測定し、食品に由来する化学物質の摂取量を推定する方法のこと。通常は、調査に協力してもらう家庭で一人前多く食事を作ってもらい、それを分析用試料とする。
本来不確実な要素を、値の範囲(確率分布)で置き換えることによって、起こり得る結果を示すモデル。具体的には、乱数表を用いてシミュレーションを繰り返すことにより近似解を求める。
家畜や養殖魚等の病気の治療や予防のために使用される医薬品のことで、作用別に、抗生物質、合成抗菌剤、寄生虫駆除剤、ホルモン剤、ワクチン等に分けられる。畜水産食料の生産に重要な役割を果たしている。食品安全委員会はリスク評価において、ヒトの健康を損なうおそれのない量(ADI等)を設定し、リスク管理機関である厚生労働省が食品中の残留基準を設定する。残留基準を超えた動物用医薬品が検出された食品は、販売等が禁止される。また、農林水産省が残留基準を担保するための出荷前の動物用医薬品の使用禁止期間等を定めている。
家畜や養殖魚用飼料の安全性確保と品質維持のため、
1)飼料の品質低下を防止する(防かび剤、抗酸化剤、乳化剤等)、
2)飼料の栄養成分や有効成分を補給する(ビタミン、ミネラル、アミノ酸等)、
3)飼料に含まれる栄養成分の家畜への有効利用を促進する(抗生物質、合成抗菌剤、酵素、生菌剤等)こと
を目的として用いられる物質。農林水産大臣により159品目が指定されている(令和4年12月現在)。畜水産食料の生産に重要な役割を果たしており、ヒトの健康を損なうおそれのないよう食品安全委員会でリスク評価が実施されている。また、農林水産省はヒトに有害な畜産物が生産されることを防止するため、飼料添加物について、製造、使用、保存方法、表示の基準や成分規格を定めており、これに適合しないものは飼料に添加できない。
生体が持っている「免疫」のシステムを利用して、あらかじめ感染症に対する「免疫力」を作らせて予防することを目的とした医薬品。ウイルス、細菌(病原体)や毒素の毒性を弱めたり失わせたりしたものを接種することで発病することなくその病原体等に対する免疫力を与え、その病原体が侵入(感染)したときに免疫による防衛反応が働く。病原体の感染を防御するワクチン(日本脳炎、肺炎双球菌等)と発症を予防又は症状を軽くするワクチン(麻疹、水痘、風疹ワクチン等)がある。ワクチンは次の3種類に大きく分かれる。
・生ワクチン(弱毒ワクチン):
病原体の毒性の弱いものを生きたまま使うワクチン。一度投与するとほぼ一生効果が持続するものもある。
・不活化ワクチン(死菌ワクチン):
病原体を熱、紫外線、薬剤等で死滅させた製剤。ある程度の期間を過ぎると効果が無くなってしまうので、基本的に追加接種が必要。
・トキソイド(変性毒素):
病原体が作り出す毒素をホルマリン等で処理し、抗原性(免疫作用を引き起こす能力)を失わせずに毒性を減少させたもの。
ラテン語で「助ける」という意味。不活化ワクチン(死菌ワクチン)等に混ぜて一緒に投与され、抗原を生体内に長時間とどまらせたりすることによりその抗原に対する免疫応答(抗体産生等)を増強する。抗原を吸着するタイプ(水酸化アルミニウム等)と、抗原を油で包み込むタイプ(流動パラフィン等)がある。
生体の免疫応答を全般的に高める物質であり、アジュバントと異なり、投与すると生体の免疫応答が全般的に増強され、抗原の感染に対する抵抗性の増強等が起こる。抗原と一緒に注射され、その抗原に対する免疫を高める。
ペニシリンのように真菌等の微生物により生産され、細菌等の微生物の代謝又は増殖機構に選択的に作用し、その発育・増殖を阻止する物質である。なお、同様の作用を有するもので、サルファ剤のように化学的に合成された物質を合成抗菌剤という。
細菌等に対して抗菌活性(殺菌作用、静菌作用等菌の活動を抑制する性質)を示す化学物質で、抗生物質及び合成抗菌剤をいう。
培地において細菌等の発育を阻止する抗菌性物質の最小濃度。MIC50は、ある菌属(種)の複数菌株のうち半数の菌株の発育を阻止する濃度(50パーセンタイル値)を意味する。MICcalcは、ある菌の集団(細菌叢)における、ある抗菌性物質の感受性又は効果を数値化したものであり、感受性を有する複数菌属(種)のMIC50の平均値の90 %信頼下限値として求める。微生物学的ADIの計算では、人の腸内細菌叢でみられる代表的な細菌の属(種)を対象としたMICcalcを用いる。
培地において細菌が死滅した抗菌性物質の最小濃度。
薬剤等(抗生物質、合成抗菌剤等)に対して感受性を示さない(薬剤が効かない)性質のことを、一般に「薬剤耐性」という。
特に、突然変異又は薬剤耐性因子(細菌に薬剤耐性形質を付与する薬剤耐性遺伝子を保有するプラスミド等)の獲得によって、抗菌性物質に対して薬剤耐性を示す細菌を、薬剤耐性菌という。医療分野で問題となる薬剤耐性菌として、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)等が知られている。
なお、細菌が薬剤等に感受性を示す(薬剤が効く)性質のことを「感性」という。
(参考)
・多剤耐性(multidrug resistance)…複数の薬剤に耐性を示すこと。交差耐性や共耐性に分けられる。
・交差耐性(cross-resistance)…同系統の薬剤や作用機序等が類似の薬剤に対して耐性を示すこと。
・共耐性(co-resistance)…複数の異なる系統の薬剤に耐性を示すこと。
・ブレイクポイント(breakpoint、耐性限界値)…薬剤感受性検査結果を基に設定される、細菌(等)が抗菌性物質等の薬剤に対して耐性を持つかどうかを判断する基準となる値。ある薬剤に対する被験菌のMIC(最小発育阻止濃度)がブレイクポイント以上である場合、その薬剤に対して耐性であると判断される。
抗菌性物質を細菌等の集団に使用した結果、薬剤耐性菌だけが生き残り、増えることがある。これを薬剤耐性菌が「選択される」といい、薬剤耐性菌を選択する強さを耐性選択圧という。
(参考)
抗菌性物質を使用すると、それが有効に働いて死滅する(感受性がある)細菌等がいる一方、効かない(耐性がある)薬剤耐性菌もある。
新しい環境に適応するために特定の形質・機構を獲得したこと(例:病原体の薬剤耐性獲得)が、かえってその生物集団内において生残するためには負担になる現象又はその程度。適応負担ともいう。
ヒト、動物、環境等の複雑な相互作用によって生じる感染症について、公衆衛生部門、動物衛生部門、環境衛生(保全)部門等の関係者が連携し、一体となって対応しようとする概念(ワンヘルス)であり、FAO、WHO及びWOAH(OIE)によって、世界的取組が進められている。
例えば、抗菌性物質は、医療、介護、獣医療、農畜水産業等の現場で使用され、その使用により選択された薬剤耐性菌や薬剤耐性の原因となる遺伝子が、食品、環境等を介してヒトへ伝播することが指摘されている。このため、薬剤耐性対策についても、各分野で一体となって取組みを進める必要性が指摘されている。
農林水産省による畜水産分野における薬剤耐性菌の出現状況及び動物用抗菌剤の販売量のモニタリング体制のこと。
各都道府県(家畜保健衛生所、水産試験場等)、独立行政法人農林水産消費安全技術センター等と連携協力し、動物医薬品検査所が基幹ラボとして実施している。
なお、ヒト医療分野においては、厚生労働省によって国内の医療機関における薬剤耐性菌の分離状況等が調査されている(院内感染対策サーベイランス(JANIS))。
内分泌系(ホルモンの分泌によって生体の複雑な機能調整を司る)の働きに影響を及ぼすことにより、生体に障害や有害な影響を引き起こす作用を持つ外因性の物質。
食器・容器等に使われるプラスチックのポリカーボネート樹脂や、食品缶詰の腐食を防ぐために使われる塗装剤のエポキシ樹脂の原材料として用いられている。これらの合成樹脂中には、未反応のビスフェノールAが微量に残存する可能性があることから、食品衛生法は、ポリカーボネートを主成分とする合成樹脂製の器具及び容器包装に2.5 µg/mL(ppm)以下の溶出試験規格を設定している。
近年、動物の胎児や子供に対し、低用量のばく露による神経系や性周期等への影響(内分秘かく乱)を示唆する知見が報告されており、欧州連合や米国において調査・研究や再評価が進められている。
食品安全委員会においても、厚生労働省からのリスク評価の要請(平成20年7月)を受けて調査審議を行い、平成22年に生殖発生毒性等に関するワーキンググループが中間とりまとめを報告している。以降、リスク評価の再開へ向け、必要な情報収集を継続している(令和元年11月現在)。
食品に使用する器具、容器、包装材等は、直接食品と接触して使用されることから、重金属や化学物質等の溶出により食品が汚染される可能性がある。これらの安全性を確保するために食品衛生法により材質・使用用途別に規格基準が設定されており、その規格基準に適合していなければならない。溶出試験とは、器具・容器包装がどのような食品に使用されるか、どのような材質であるかによって決められる溶媒・条件において重金属や化学物質が溶け出す量が基準を満たしていることを確認するために行う試験である。
カドミウムは、原子番号48、元素記号Cd、原子量112.411、密度8.65 g/cm3(25 ℃)、融点320.8 ℃、沸点765 ℃の銀白色の重金属である。主な用途には、非食品用途のポリ塩化ビニル(PVC)の安定剤、プラスチック・ガラス製品の着色料、ニッケル・カドミウム蓄電池の電極材料等がある。カドミウムは、土壌中、水中、大気中等、自然界に広く分布し、多くの食品には、環境由来のカドミウムが含まれていることが確認されている。
カドミウムのばく露による慢性毒性としては、腎臓の近位尿細管機能障害が認められている。
食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準」における器具及び容器包装のカドミウムの溶出基準に係る規格基準が改正されたことから、厚生労働省の依頼を受け、食品安全委員会では、食品健康影響評価書の第3版を令和6年2月に取りまとめ、第2版(平成22年4月)で設定された耐容週間摂取量(TWI)7 μg/kg体重/週を維持している。
鉛は、原子番号82、元素記号Pb、原子量207.2、密度11.34 g/cm3(20 ℃)、融点327.5 ℃、沸点1740 ℃の重金属である。主な用途には、各種のおもりや蓄電池の材料等がある。ヒトは日常生活において、食事(食物だけでなく飲料水や食品用器具・容器包装からのばく露も含む。)、大気、土壌及び室内塵等の幅広い媒体からばく露を受けていると考えられる。ヒトの体内に吸収された鉛は主に尿中に排泄される。鉛ばく露による主な健康影響には、神経系、腎臓への影響がある。
食品安全委員会では、厚生労働省から清涼飲料水及び器具・容器包装の規格基準の改正に関しリスク評価の要請(平成15年7月及び平成20年9月)を受け、また、食品全体からのばく露を対象として「自ら評価」を実施することを決定し(平成20年4月)、令和3年6月に評価結果を取りまとめた。
メチル水銀は有機水銀化合物の一種であり、水銀がメチル化された化合物である。生体に対するメチル水銀の毒性は中枢神経系に対する影響が最も典型的なものであり、特に胎盤通過性が高いことや血液—脳関門を通過することから、発達中の胎児の中枢神経が最も影響を受けやすいことが知られている。食品安全委員会で行った、魚介類等に含まれるメチル水銀のリスク評価では、胎児をハイリスクグループとし、妊娠している方及び妊娠している可能性のある方を対象とした耐容週間摂取量(TWI)は、水銀(Hg)として2.0 μg/kg体重/週と設定されている。
アクリルアミドは、分子量71.1、比重1.122〜1.127、融点84.5 ℃の無臭の白色結晶で、室温で安定な物質である。紫外線や熱により重合しポリアクリルアミドとなる。食品中のアクリルアミドは、食品に含まれているアミノ酸の一種であるアスパラギンとぶどう糖等の還元糖が、120 ℃を超えるような高温加熱条件下で反応し、意図せず生成されることが報告されている。
食品安全委員会では、加熱時に生じるアクリルアミドに関して、「自ら評価」を実施し、平成28年4月に評価結果を取りまとめた。
グリシドールは、エポキシドとアルコール基の両方を含む有機化合物であり、国際がん研究機関(IARC)により、発がん性物質グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類されている。食品安全委員会では、「高濃度にジアシルグリセロールを含む食品の安全性」(平成27年3月)に関する評価の中で、食品に含まれるグリシドール及びその脂肪酸エステルに関する知見を取りまとめた。
グリシドールにアルコールの一種と脂肪酸がエステル結合した化学物質の総称。結合する脂肪酸の種類によって多種類のグリシドール脂肪酸エステルが存在する。体内で加水分解され、グリシドールを生ずる。
分析技術の進歩により、精製した食用油脂等に含まれることが近年分かった物質であり、油脂を脱臭精製する工程で高温処理される際等に、原料中に元々含まれる成分から生成されることが報告されている。
3-MCPDは、クロロプロパノール類(アルコールの一種であるプロパノールと塩素が結合した物質の総称)の一種。
精製した食用油脂の中では3-MCPD脂肪酸エステルとして存在することが明らかになっている。油脂の脱臭精製工程で原料に含まれる成分から生成された3-MCPD脂肪酸エステルは、食品を通じて摂取されると、体内での加水分解により3-MCPDを生ずる。
3-MCPDの毒性として、動物試験において、腎臓への影響(尿細管の過形成等)、精子運動機能の低下、精子の形態変化等が報告されている。
(詳細)
ハザード別情報「食品からの3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD)脂肪酸エステルの摂取」(食品安全委員会ウェブサイト)
https://www.fsc.go.jp/hazard/fscj_message_20170623.html
ヒ素は、原子番号33、元素記号As、原子量74.9の半金属であり、環境中に様々な無機及び有機化合物として存在する。環境中のヒ素は、鉱物の風化や火山活動、人為的活動に由来する。無機ヒ素が長期間にわたって、継続的かつ大量に体内に入った場合、皮膚組織の変化やがん発生等の悪影響が報告されている。有機ヒ素は現在のところ、一般に無機ヒ素と比べると悪影響の程度は低いとされる。我が国では伝統的に海藻類や魚介類を摂取する習慣があり、海産物中には多くのヒ素化合物(海藻のアルセノシュガー、海産物のアルセノベタイン等。いずれも有機ヒ素)が含まれており、また、農産物の中では、コメからの摂取が比較的多い傾向にあることから、諸外国と比較して多くのヒ素を食事から摂取している。しかし、通常の食生活における摂取で健康に悪影響が生じたことを示すデータは現在のところない。食品安全委員会では「自ら評価」の一つとして「食品中のヒ素」について、平成25年12月に評価結果を取りまとめた。
ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)及びコプラナ-ポリ塩化ビフェニル(PCB)をいう。2つのベンゼン環がつながった構造で、約200種類の異性体がある。環境中で分解しにくく(難分解性)、生体内の脂質に蓄積されやすく(高蓄積性)、発がん性、免疫毒性、生殖毒性、催奇形性等の強い毒性がある。異性体が多いため、最も毒性が強い2,3,7,8–ジベンゾ–p–ダイオキシン(TCDD:tetrachlorodibenzo–p-dioxin)の毒性に換算して評価する。ダイオキシン類は、廃棄物焼却炉、金属精錬炉、農薬製造施設等で非意図的に生成される。被害例としては、ベトナム戦争時、米軍が散布した枯葉剤に含まれていたダイオキシンによる奇形児の出生、1976年、イタリア・セベソの農薬工場爆発事故による家畜の大量死や女児の出生増加、カネミ油症事件等がある。1999年にダイオキシン類対策特別措置法が制定され、廃棄物焼却炉等の排出規制が強化されるとともに、大気、水質、土壌、底質(水底の砂泥等の堆積物)等の環境基準が定められた。
有機フッ素化合物(PFAS:Per- and Polyfluoroalkyl Substances)は、一般に一部あるいは完全にフッ素化された疎水性のアルキル鎖と親水性の末端基からなる物質の総称であり、その分子種の定義は複数存在する。PFAS分子種として知られる化合物の数は、OECDによると4,730(平成30年時点)、EPAによると12,000(令和3年時点)を超えるとされている。PFASは、撥水性及び撥油性並びに物理的及び化学的な安定性を併せ持つことから、かつて幅広い用途で用いられていたが、難分解性、高蓄積性等を有することから、近年、日本を含め各国の規制対象となっている。
我が国においても、PFASの一種であるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:Perfluorooctane Sulfonate)、パーフルオロオクタン酸(PFOA:Perfluorooctanoic Acid)及びパーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS:Perfluorohexane Sulfonate)の製造及び輸入が原則禁止されている。
食品安全委員会では、PFASに関して「自ら評価」を実施することを決定し(令和5年1月)、「有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループ」を設置のうえ、令和5年2月から調査審議を行い、令和6年6月に評価結果をとりまとめ、PFOS、PFOAについて耐容一日摂取量(TDI)を20 ng/kg体重/日と設定、PFHxSについて現時点では指標値の算出は困難であると判断した。
食物連鎖を通じて、植物性プランクトン→動物性プランクトン→小型捕食動物→大型捕食動物と上位の階層に行くほど、ある特定の物質の体内蓄積濃度が増す現象。このような現象は、当該物質が環境中で安定的かつ継続的に存在している場合や、摂取後容易に排出されず、また生体内で安定して存在する場合等に起こり得る。