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■ 疫学
健康関連の問題解決に役立てることを目的として、人間集団の中で起こる健康関連の様々な事象(疾病発生等)の頻度と分布、それらに影響を与える要因(ばく露 下記参照)を研究する学問のこと。
疫学では、ばく露は疾病発生等の以前に存在する特定の状態をいい、ハザードに生体がさらされることに限らず日常生活習慣(喫煙、飲酒、運動、食生活等)も含む。
疫学研究方法は、対象集団への研究者の意図による介入の有無、研究データの単位(個人又は集団)、ばく露と疾病発生の調査のタイミング、観察の方向性の違いによって、主に(1)介入研究、(2)観察研究、(3)生態学的研究、(4)横断研究、(5)縦断研究、(6)症例対照研究、(7)コホート研究といったものがある。
原因とそれによって生じる結果との関係をいう。要因とアウトカムの間に関連が見られても、因果関係があるとはいえないことがある。それは一般に、(1)偶然(偶然誤差)、(2)バイアス、(3)交絡、(4)因果の逆転、によるものである。因果関係を推論するための視点として以下の例が考えられる。これらは必ずしも全て満たす必要はない。
1)強固性(Strength):要因とアウトカムの関連が強い
2)一致性(Consistency):異なる地域・時代・状況でも同様の関連が認められる
3)特異性(Specificity):注目している要因がなければアウトカムは起きない(多要因で起きる場合では成立しない)
4)時間性(Temporality):要因がアウトカムよりも時間的に先行する
5)生物学的勾配(Biological Gradient):量‐反応関係がみられる
6)妥当性(Plausibility):矛盾なく説明できる
7)整合性(Coherence):既知の知識体系と矛盾しない
8)実験的証拠(Experimental Evidence):介入等でばく露を減少させると疾病の頻度が減少する
9)類似性(Analogy):既存の類似した関連により裏付けられる
疫学研究において取り扱うデータに生じる特定方向への偏りのこと。要因とアウトカムの関連について誤った推論を導く原因となる。系統誤差Systematic Errorとも呼ばれる。
一般的にバイアスは、選択バイアスと情報バイアスに大別される。
研究対象者を選択する際に生じるバイアス。研究の対象集団が真の集団(母集団)とは異なる特性を持っているときに生じる。
例として、対象者を集める方法によりその属性が偏ること(インターネット上で募集するとパソコンやスマートフォンを利用しない人が研究対象集団に含まれにくい等)、特定の属性を持つ対象者が選択的に脱落すること等が挙げられる。
情報を取り扱う際に生じるバイアス。情報の不適切な取得や処理により生じる。
例として、観察者によって(高めに評価する人や低めに評価する人がいる等)観察結果に偏りが生じること、疾病を発症した人と健常者とで過去の事象を思い出す範囲や程度に差が生じること、要因とアウトカムの関連を示唆する有意な結果が出た研究結果の方が発表されやすいこと等が挙げられる。
検討している要因が、アウトカムに影響を与える別の要因(交絡要因又は交絡因子 Confounder/Confounding Factor)と密接に関連していることにより、検討している要因とアウトカムの真の関連とは異なった関連が観察される現象のこと。交絡を排除するためには、研究設計やデータ解析の段階において種々の対策が必要となる。交絡をバイアスの一つ(交絡バイアス)とする考えもある。
例:飲酒と肺がんの関連を調べようとする場合、検討しようとする要因(飲酒)が、アウトカム(肺がんの発生)に影響を与える別の要因(喫煙)と密接に関連している(飲酒者は喫煙者でもあることが多い)ために、飲酒と肺がんの関連が正しく観察されない可能性がある。このとき、喫煙が交絡要因に該当し、喫煙が飲酒と肺がんの関連の検討に影響を与えないように、研究設計やデータ解析の段階で対策を講じる必要がある。
疫学研究では、ばく露による疾病発生の頻度をリスクといい、以下のものがある。 (食品安全分野におけるリスクはこちら)
ばく露を受けた集団における、疾病が発生する頻度(確率)。
ばく露群と非ばく露群との間の疾病の発生頻度の比。
相対リスク=ばく露群の疾病頻度÷非ばく露群の疾病頻度
※過剰相対リスク(Excess Relative Risk)
相対リスクからばく露がなくても発生する部分(すなわち1)を引いたもの。
過剰相対リスク=相対リスク−1
ある疾病の発生頻度の中で、ばく露に起因する部分(差や割合)を表す指標。
ばく露群と非ばく露群の疾病頻度の差(リスク差)を狭義の寄与リスクという。
寄与リスク=ばく露群の疾病頻度 - 非ばく露群の疾病頻度
ばく露群の疾病頻度のうち、真にばく露によって増加した部分の占める割合を寄与危険割合という。
寄与危険割合=寄与リスク ÷ ばく露群の疾病頻度
ばく露群と非ばく露群との間の疾病の発生頻度の比又は差を意味する。発生頻度の比は相対リスクのことである。発生頻度の差はリスク差又は狭義の寄与リスクのことである。
オッズとは、ある事象が発生する確率と発生しない確率の比のことである。オッズ比は、オッズとオッズの比(比の比)であり、ばく露と疾病との関連の強さを評価するための指標として用いられる。ばく露と疾病との間に関連がなければ、オッズ比は1となる。ばく露が疾病の増加と関連があればオッズ比は1より大きくなり、ばく露が疾病の減少と関連があればオッズ比は1より小さくなる。
例えば食中毒調査では、ある食品について、食中毒(疾病)の発症者と非発症者の喫食(ばく露又は非ばく露)状況を調査し、そのオッズ比を求めることにより、原因食品としての可能性を検討する。
ある一時点における集団内の特定の健康状態(主に疾病)を有する者の割合のこと。有病率といわれることが多い。
(例)疾病Aの有病率=ある集団の疾病Aを有する者の数÷その集団の全員の数
一定の観察期間における集団での疾病発生の率。
有病率は一時点での患者の割合であるのに対し、罹患率は一定の期間内に新たに発生する患者数の指標である。
一定の観察期間における、集団での死亡発生の率。死亡率における集団は、ある疾病にかかった人とかかるリスクを持つ人の両方が含まれる。それに対して、致死率(致命率)における集団は、その疾病にかかった人のみ含まれる。
ある疾患に罹患した集団における、一定の観察期間内の死亡者の割合。
疾病の重篤度を示す指標である。致命率といわれることもある。
年齢構成が異なる集団間で死亡状況の比較ができるように、基準集団に年齢構成を調整してそろえた死亡率のこと。観察集団の年齢階級別死亡率のデータが必要であり、観察集団の人口規模が大きい場合に用いられる。
年齢調整死亡率は以下の式で表される。
年齢調整死亡率=(観察集団の年齢階級別死亡率×基準集団の年齢階級別人口)の総和÷基準集団の総人口(通例人口10万人当たりで表示)
人口構成の違いを除去して死亡率を比較するための指標。主に、観察集団の年齢階級別死亡率のデータが得られない場合や、観察集団の人口規模が小さく、年齢階級別死亡率が安定しない場合に用いられる。
標準化死亡比は以下の式で表される。
標準化死亡比= 観察集団の実際の死亡数÷(基準集団の年齢階級別死亡率×観察集団の年齢階級別人口)の総和
なお、死亡の代わりに罹患に着目した場合は、標準化罹患比(SIR:Standardized Incidence Ratio)と呼ぶ。
対象集団のばく露に研究者が介入せずに、疾病の発生状況をありのままに調査する研究方法。
観察研究には、ばく露や疾病発生の分布に関する対象集団の特徴を整理、記述する記述研究と、ばく露と疾病発生との関連を検討する分析研究がある。分析研究には生態学的研究、横断研究、症例対照研究、コホート研究が含まれる。
ある疾病を有する対象者(症例群)と有さない対象者(対照群)について、両群の過去のばく露を比較することで、ばく露と疾病発生との関連を検討する研究方法。
ある疾病を生じる可能性があるばく露の違いを持つ集団(単純にはばく露群と非ばく露群)を追跡し、両群の疾病発生を比較することで、ばく露と疾病発生との関連を検討する研究方法。
現在から未来に向かって追跡するものを前向きコホート研究(Prospective Cohort Study)という。他方、過去のある時点に遡って対象集団を設定し、そこから現在に向かって追跡するものを後向きコホート研究(Retrospective Cohort Study)という。