「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書(案)に関するQ&A(2月13日)

初版:令和6(2024)年1月26日作成
第2版:令和6(2024)年2月6日更新
(Q2、Q5、Q6、Q8、Q10を更新)
第3版:令和6(2024)年2月13日更新
(Q7を更新)

本Q&Aは、食品安全委員会有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループで審議し、令和6年2月6日の第928回食品安全委員会において報告された時点のPFASの食品健康影響評価書(案)別ウインドウで食品安全総合情報システムが開きますに基づき、担当委員が作成したものです。このため、今後のパブリックコメントの結果を考慮して評価書を確定した後に、内容が変わる可能性があります。

 

情報提供(Q&A形式)の内容

I.評価の背景・手順・方法論

II.評価書(案)の概要

III.参考

会議資料詳細:第928回 食品安全委員会別ウインドウで食品安全総合情報システムが開きます

Q&A

I.評価の背景・手順・方法論

Q1 食品安全委員会は、なぜPFASの健康影響について自ら評価をしたのですか?

食品安全委員会は、これまで、食品や飲用水のほか、環境由来のばく露も考慮して、汚染物質の摂取による人の健康への影響についての評価やこれに向けた情報収集を行ってきました。この一環として、PFASについても、国内外の知見を収集し、関係機関に提供してきたところです。

その中で、近年、海外において、リスク評価及びリスク管理に関して新たな動きがあったことや、国内でも、厚生労働省及び環境省が水質の目標値等の検討を開始したことを受けて、まずはこれらの検討に資するような科学的な助言を行っていくべきとの考えに至りました。そのため、令和5年1月31日に、PFASを食品安全委員会が自ら行う食品健康影響評価(自ら評価)の対象とすることを決定し、令和5年2月7日にPFASワーキンググループの設置を決定し、調査審議することとしました。

※ 食品安全委員会は、食品の安全を確保するため、食品に含まれる可能性のある様々な危害要因(ハザード)を摂取することによって起こる健康への影響についてのリスク評価(食品健康影響評価)を行っています。食品安全委員会が行うリスク評価には、新たな農薬を登録する場合などに厚生労働省、農林水産省等のリスク管理機関からの要請により行う評価のほか、自らの判断で対象案件を選定して行う評価(自ら評価)があります。
自ら評価の候補案件については、国民の健康への影響が大きいと考えられるもの、危害要因の把握の必要性が高いもの及び評価ニーズが特に高いと判断されるものの中から、リスク評価の優先度が高いと考えられるものを企画等専門調査会が選定し、国民からの意見・情報の募集を行った上で、食品安全委員会が決定しています。

Q2 PFASの食品健康影響評価はどのような手順により行ったのですか?

農薬等の食品健康影響評価においては、リスク管理機関からの依頼を受け、申請企業が提出したデータを中心に専門家が検討します。しかし、PFASは食品安全委員会が自ら、評価を行うことを決めたもので、かつ、意図せず食品に含まれる物質であるため、申請企業などはなくデータも提出されません。そのため、食品安全委員会は、PFASのうちPFOS、PFOA、PFHxSを中心に、国際機関や各国の政府機関が行った評価結果やそれに用いた知見を集めるために、令和4年度に調査事業を実施し、それによって関連する国内外の学術文献(計2,969報)を収集しました。これらの科学的知見に加えて、環境省、厚生労働省、農林水産省が実施した調査も考慮して、PFASワーキンググループが評価を行いました。また、各国の政府機関等が対象としなかった新型コロナウイルス感染症との関連を検討した新たな文献等も含め検討し、評価書(案)にまとめました。文献は、学術雑誌に掲載された査読付き論文を用い、動物試験や疫学研究について、試験や研究の質も含めてPFASワーキンググループで議論しました(詳細はQ4参照)。

※ 論文が学術雑誌に掲載される前段階で、その分野の第三者の科学者等により、当該論文の科学的な妥当性、雑誌掲載の適否について審査(評価、チェック)をすること

Q3 食品健康影響評価(リスク評価)として、何を行ったのですか?

食品安全分野におけるリスク評価とは、食品に含まれる危害要因(ハザード)の摂取(ばく露)によるヒトの健康に対するリスクを、ハザードの特性等を考慮しつつ、付随する不確実性を踏まえて、科学的に評価することを指します。リスク評価は、通常、1)ハザードの特定(有害影響を及ぼす可能性がある物質等を特定)を行い、2)ハザードの特性評価(健康への有害影響の性質と程度を評価)を行います。また、3)ばく露評価(食品からハザードをどの程度摂取しているか推定)を行い、2)と3)の結果を用いて、4)リスク判定を行います。

(参照:農林水産省ウェブサイト)政府が適用する食品安全に関するリスクアナリシスの作業原則(CXG 62-2007)[PDF:189KB]外部サイトのPDFファイルを別ウインドウで開きます

PFASの評価書(案)においては、1)PFOS、PFOA及びPFHxSを対象として、2)動物試験の結果や、ヒトでの調査結果(疫学研究)から、どのような健康影響があるか、またどの程度の摂取量で起こり得るかを評価し、PFOS及びPFOAの耐容一日摂取量(TDI)を設定しました。また、3)これらの物質を食品や水を通じて日本人がどれくらい摂取しているかの情報を整理し、4)TDIと日本人の通常の一般的な食生活における摂取量を比較して、現時点におけるPFASワーキンググループの見解をまとめました。

リスク評価の基本ステップの図

Q4 評価書(案)は、動物試験と疫学研究に大別して記述されています。どのような違いがありますか?

動物試験は、検討対象とする目的(確認したい毒性の種類)に応じて、用量等の試験条件の設計(動物種、性、一群あたりの動物数、投与経路、用量、投与期間、観察・検査項目等)を行うことが可能であり、多い量を投与して解剖なども行うことにより、影響を細かく検討することができます。そのため、ヒトでの影響を推測するために有用です。ただし、用いる動物とヒトとには種差があり、動物のデータをヒトに当てはめて類推すること(通常、ヒトへの外挿性、と表現されます)が妥当かどうかについては慎重に検討することが必要です。また、多くの場合、動物で見られる影響は、ヒトが現実にばく露し得る水準よりはるかに多い用量で試験した際の結果であることにも留意が必要です。

容量-反応曲線

一方、疫学研究は、ヒトの集団における健康関連の様々な事象(疾病の発生等のアウトカム)の頻度と分布、それらに影響を与える要因を研究します。疫学の中に、横断研究や前向きコホート研究、後ろ向きコホート研究などがあります。疫学研究は、人間集団への化学物質のばく露によって生じる可能性のある健康影響についての有用な情報を提供し得るものですが、交絡要因等から、真の関連とは異なった関連が観察されることがあります。疫学研究の結果の確からしさにも限界があることに留意が必要です。

疫学研究のイメージ

※ 例えば、飲酒と肺がんの関連を調べようとする場合、検討しようとする要因(飲酒)が、アウトカム(肺がんの発生)に影響を与える別の要因(喫煙)と密接に関連している(飲酒者は喫煙者でもあることが多い)ために、飲酒と肺がんの関連が正しく観察されない可能性があります。このとき、喫煙が交絡要因に該当し、喫煙が飲酒と肺がんの関連の検討に影響を与えないように、研究設計やデータ解析の段階で対策を講じる必要があります。

動物試験、疫学研究それぞれに特徴があり、評価において役立つ部分と手法上の限界となる部分の両方があります。また、双方共に複数の試験や調査が行われ、矛盾する結果が出ていることも少なくありません。そのため、評価書(案)では、エンドポイント(有害影響を評価するための指標)ごとに、動物試験と疫学研究の結果についてそれぞれ、数多くの試験・研究の質や結果の一貫性などについて細かく検討した結果を記述し、それらをまとめた判断を記載しました。

Q5 評価において、日本人を対象とした研究結果はどの程度、取り入れられていますか?

今回の評価に際して収集された論文のうち、我が国における疫学研究の知見としては、北海道で進められている前向き出生コホート研究である「環境と子どもの健康に関するモニタリング調査(北海道スタディ)」が採用されています。この調査では、精神神経発達、アレルギー疾患などと生活環境や化学物質などの環境要因との関連について調査が行われています。

なお、今回のワーキンググループにおける議論には、この調査に携わっている研究者もメンバーとして加わっています。

II.評価書(案)の概要

Q6 ハザードの特性評価(PFASの健康への有害影響の性質と程度の評価)においては、どのような項目がどう評価されたのですか?

健康への有害影響の評価として取り上げるエンドポイント(有害影響を評価するための指標となる生物学的事象)については、海外評価機関による評価書を踏まえて、エンドポイント別に整理して検討しました。

(1)肝臓への影響:PFOS、PFOA及びPFHxSは、血清ALT値の増加と関連との報告があり、肝臓に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、証拠は不十分であると判断しました。

(2)脂質代謝への影響:PFOS及びPFOAは、血清総コレステロール値の増加と関連との報告があり、脂質代謝に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、証拠は不十分であると判断しました。PFHxSは、評価を行うには知見は不十分であると判断しました。

(3)甲状腺機能と甲状腺ホルモン:知見が少なく、また、結果に一貫性がないため、影響があるとまでは言えないと判断しました。

(4)生殖・発生への影響:動物試験の結果から、PFOS及びPFOAばく露による次世代影響が報告されています。疫学研究では、PFOS及びPFOAばく露と、出生時体重の低下との関連は否定できないものの、低出生体重児(2,500 g未満)等の影響を報告した知見は限られており、出生後の成長に及ぼす影響についてはまだ不明であると判断しました。

(5)免疫への影響:PFOS、PFOA及びPFHxSは、ワクチン接種後の抗体応答の低下に関連している可能性は否定できないものの、証拠の質や十分さに課題があると判断しました。

(6)神経への影響:評価を行うには知見が不十分であると判断しました。

(7)遺伝毒性:PFOS、PFOA及びPFHxSは、直接的な遺伝毒性は有しないと判断しました。

(8)発がん性:動物試験の結果は、げっ歯類特有のメカニズムによる可能性がある又は機序の詳細が不明であることから、ヒトに外挿できるかどうかは判断できませんでした。疫学研究では、PFOAと腎臓がん、精巣がん、乳がんとの関連については、結果に一貫性がなく、証拠は限定的であると判断しました。PFOSと肝臓がん、乳がん、PFHxSと腎がん、乳がんとの関連については、証拠は不十分と判断しました。

 ※ 「限定的」「不十分」とは
この評価書(案)では、発がん性について、
「限定的」とは、関連がみられたとする報告はあるものの、ほかに関連がなかったとする報告もあり、結果に一貫性がない場合
「不十分」とは、関連がみられたとする報告はあるものの、症例数の規模が小さいなどから証拠としては不十分である場合
に用いられています。
他の健康影響についても、同様の考え方で検討したものの、「限定的」や「不十分」とは一概に分類できないものについては、その証拠の質や確からしさなどに応じた言葉が用いられています。

(参考)世界保健機関(WHO)傘下の一機関である国際がん研究機関(IARC)が2023年11月30日に発がん性の分類結果を公表しました。この分類は、PFOSやPFOAが発がん性を示す根拠がどれくらいあるかを示すものであり、発がん性の強さや摂取量による影響は考慮されていません。したがって、食品安全委員会が行う評価とは異なり、ヒトが実際の生活環境下で摂取(ばく露)したときに実際にがんが発生する可能性とその影響の程度(リスクの大きさ)を示すものでもありません。詳細は、「PFOA及びPFOSに対するIARCの評価結果に関するQ&A」を参照ください。

Q7 耐容一日摂取量(TDI)の設定の考え方やTDIの意味するところを教えてください。

耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)は、意図的に使用されていないにもかかわらず食品中に存在する物質について、ヒトが一生涯にわたって食品から摂り続けても健康に影響が出ないと推定される量のことです。体重1 kgあたりの物質の摂取量で示されます。

PFOS及びPFOAについて、現時点の科学的知見に基づくと、動物試験の結果から算出した健康影響に関する指標値として、TDIを、PFOS 20 ng/kg 体重/日、PFOA 20 ng/kg 体重/日とすることが妥当と判断しました。PFHxS については、評価を行う十分な知見は得られていないことから、算出は困難と判断しました。

なお、疫学研究の結果から報告がある影響については、現時点では、臨床的な意義が明らかになっていないことなどから、いずれもTDIなどの指標値を算出するには情報が不十分であると判断しました。

(参考)TDIの算出根拠

PFOS(20 ng/kg体重/日):ラットを用いた試験で児動物の体重抑制に基づき得られたNOAEL(0.1 mg/kg体重/日)を基に、ヒトの用量を推計するモデルから求めたPODHED※を不確実係数(30)で割って算出

PFOA(20 ng/kg体重/日):マウスを用いた試験で胎児の前肢及び後肢の近位指節骨の骨化部位数の減少等から得られたLOAEL(1 mg/kg体重/日)を基に、ヒトの用量を推計するモデルから求めたPODHEDを不確実係数(300)で割って算出

  ※ PODHED:ヒト等価用量に換算したPOD

リスク評価では、「ハザードの特性評価」と並ぶステップとして「ばく露評価」を行います。そのため、日本人がどの程度PFASを摂取しているかを推定するため、関連する国内外の既存の知見を整理しました。

ヒトがPFASを摂取する経路としては、食品・飲料に加え、食品包装や粉じんからの経口摂取、カーペットや衣類等からの経口・吸入・経皮ばく露が指摘されています。

日本人の食品を通じたPFASの摂取については、限られた情報ではあるものの、2012-14年に農林水産省が実施した調査によれば、通常の一般的な食生活において推定されるヒト1日あたりのPFOSの平均的な摂取量は、0.60 ng/kg体重と1.1 ng/kg体重の間にあること、PFOAの平均的な摂取量は、0.066 ng/kg体重と0.75 ng/kg体重の間にあるとされました

この推定値は、今回の食品健康影響評価において現時点のデータおよび科学的知見に基づいて設定したTDIと比較すると低い状況にあるものと考えられます。

ただし、上記の推定値には、調査の実施年、調査点数、定量下限などに起因する不確実性があることに留意が必要です。国内における食品中のPFAS濃度に関するデータなど、現在の日本人の摂取量推定のための情報が不足しているため、ばく露実態の把握を進める必要があります。また、食品中のPFASの濃度については、試料 kg あたり ng のオーダーで非常に微量です。信頼できる分析結果を得るため、妥当性が確認された分析法に基づきデータが収集されることが重要です。

なお、上記の推定値は、欧州食品安全機関(EFSA)が公表した推定摂取量と比較すると、PFOSについては同程度、PFOAについては欧州よりも低い水準でしたが、調査手法や調査年次が異なることに留意が必要です。

※ 上記の日本人の平均摂取量は、通常の食生活における化学物質の平均的な摂取量を推定する手法であるトータルダイエットスタディにより算出されたものです。具体的には、地域ごとに幅広い種類の食品試料を購入し、食品群ごとに、食品群別消費量に比例するように混合した試料を調製し、食品群ごとにPFOS及びPFOAの濃度が分析されました。食品群別の濃度の平均値と日本人の食品群別の平均消費量を乗じて、それらを足し合わせることで日本人の平均的なPFOSやPFOAの摂取量が推定されました。
この調査が行われた当時の分析技術では、検出下限値(LOD)※1及び定量下限値(LOQ)※2が高く、多くの食品群において、PFOS及びPFOA濃度は、LODやLOQより低い結果でした。そのため、そのような食品群について、実際の濃度として推定される下限値(LOQ未満の分析値を0としたもの)を用いて計算した摂取量(LB)と、実際の濃度として推定される上限値(LOD未満の分析値をLODと同値、LOD以上LOQ未満の分析値をLOQと同値としたもの)を用いて計算した摂取量(UB)の双方の平均摂取量が示されています。実際の平均摂取量と比べて、摂取量(UB)は過大に、摂取量(LB)は過小に推定されている可能性があります。

※1 検出下限(Limit of Detection; LOD):ある分析法で化学物質を分析した場合に検出可能な最低濃度。

※2 定量下限(Limit of Quantification; LOQ):ある分析法で化学物質を分析した場合に定量が可能な最低濃度。

ヒトの血中濃度は、過去のPFAS摂取の総量を反映した値ですが、PFOS及びPFOAのヒトの体内での消失半減期は数年にわたる長期間であり、その時々の摂取量や体内動態については不確実な点が多いことから、測定された血中濃度の結果からPFAS摂取・ばく露の量、時期、期間等を推測することは現時点の知見では困難です。海外の評価機関でも様々なモデルが用いられています。また、血中濃度を指標としているドイツにおいても、「この値を超えた場合に必ずしも個人の健康障害を引き起こすものではなく、集団の状況を把握し、ばく露防止等の対策を検討するためのもの」と位置づけています。

今回、ばく露量推定で参照したデータは、複数の地域における食品を対象として推計した結果であることから、通常の一般的な国民の食生活から食品を通じて摂取される程度のPFOS及びPFOAによっては、著しい健康影響が生じる状況にはないものと考えられます。PFOS、PFOA等のリスクを過剰に懸念して食生活を変更することには、栄養学的な過不足をもたらす等の新たな異なるリスクをもたらすおそれがあります。

一方で、上記のデータには、調査地域数や定量下限の相違などに起因するかなりの不確実性があります。また、国内の各種食品中のPFAS濃度など摂取量の推定に関する情報が不足していることから、さらなる情報の集積を図っていく必要があります。

一般に、食品中の汚染物質については、「ALARA(as low as reasonably achievable:合理的に達成可能な限り低く)の原則」に従い、”無理なく到達可能な範囲でできるだけ低くすべき”とされています。

PFOS及びPFOAをはじめとするPFASについては、健康影響に関する情報が不足しており、不明な点等は多いものの、関係機関においては、まずは、今回設定したTDIを踏まえた対応に取り組むことが重要です。そのためには、飲料水、食品等におけるデータの収集を早急に進め、こうした調査結果等をもとに、高い濃度が検出されたものに対する対応を進めることが必要です。