PFOA(パーフルオロオクタン酸)及びPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に対する国際がん研究機関(IARC)の評価結果に関するQ&A
2023年12月5日公開
(2023年12月21日更新)
有機フッ素化合物のうち、PFOA(パーフルオロオクタン酸)及びPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)について、世界保健機関(WHO)傘下の一機関である国際がん研究機関(IARC)が発がん性を評価し、その結果を2023年11月30日、公表しました。IARCは、PFOAをグループ1に、PFOSをグループ2Bに分類しました。昨今、PFOAやPFOSについての社会的関心が高いことから、食品安全委員会は、今回のIARCによる発がん性分類の結果や意味について、Q&A形式で整理し、情報提供することにしました。
なお、現在、食品安全委員会は、PFOAやPFOSを中心に、有機フッ素化合物(PFAS)を食品を通じて摂取した場合の健康影響について評価中です。発がん性を含む様々な毒性について、国内外から収集した知見を精査して見解をまとめ、その結果を、評価書として公表する予定です。
このウェブページは、PFOA及びPFOSに対するIARCが発表した内容やその意味について、客観的に解説することを目的とするものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。今後とも、IARCが公表する情報を見ながら内容の更新を行ってまいります。
情報提供(Q&A形式)の内容
Q5 今回IARCが、パーフルオロオクタン酸(PFOA)の発がん性分類を「グループ1」とした根拠は?
Q6 今回IARCが、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の発がん性分類を「グループ2B」とした根拠は?
Q7 PFOAやPFOSを摂取すると、がんを引き起こすのか?
<参考リンク>さらにPFASについて知りたい方へ
Q&A
Q1 PFOA及びPFOSとは何ですか?
PFOA及びPFOSは、有機フッ素化合物の一種です。
PFOAについてはフッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤など、PFOSについては半導体反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤、泡消火剤などに使われてきました。難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があり、分解が遅いために環境中に蓄積されるため、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)に基づきPFOAは2019年に「廃絶」、PFOSは2009年に「制限」と、それぞれ対象物質に分類されました。
これを受けて我が国でも、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づき製造・輸入等を原則禁止しています。
Q2 IARC発がん性分類は何を示しているのか?
IARCの発がん性分類は、様々な要因(化学物質、微生物、作業環境や特定の行為等)について、ヒトに対する発がんの原因となり得るかどうかの根拠の程度がどれくらいあるかを示すものです。この分類は、各要因の発がん性の強さを示すものではありません。ヒトが実際の生活環境下で摂取(ばく露)したときに実際にがんが発生する可能性の大きさとその影響の程度(リスク)を示すものでもありません。
Q3 IARCが分類する4つのグループとは?
IARCは、各要因について、以下の(1)〜(3)の、ヒトでの発がん性の証拠、マウスやラットなどの実験動物での発がん性の証拠、がんが発生するしくみの証拠の強さに基づき、グループ1、2A、2B、3の4つに分類しています。1から3の順にヒトにおける発がん性の証拠は弱くなります(表1)。
(1) 人に対する発がん性(ヒトの疫学研究)
(2) 動物に対する発がん性(ラットやマウスなどの動物試験)
(3) 発がんの機序(発がん性物質としての主要な特性を示すかどうかの試験)
グループ | 評価内容 | 発がん性を示す根拠の程度 |
---|---|---|
1 | Carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性がある) |
・ヒトにおいて「発がん性の十分な証拠」がある場合 または ・実験動物において「発がん性の十分な証拠」があり、かつ、ヒトにおいて発がん性物質としての主要な特性を示す有力な証拠がある場合 |
2A | Probably carcinogenic to humans (おそらくヒトに対して発がん性がある) |
以下のうち少なくとも2つに該当する場合 ・ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」がある ・実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある ・発がん性物質としての主要な特性を示す有力な証拠がある |
2B | Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性がある可能性がある) |
以下のうち1つに該当する場合 ・ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」がある ・実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある ・発がん性物質としての主要な特性を示す有力な証拠がある |
3 |
Not classifiable as to its carcinogenicity to humans (ヒトに対する発がん性について分類できない) |
上記いずれにも該当しない場合 |
これまで、IARCは合計で1046の要因を評価(2023年12月時点)し、そのうち128要因(例:たばこ、アルコール飲料)について、グループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類しています。主に、ヒトにおける発がん性を示す有力な根拠があるものが該当します。また、動物試験において発がん性を示す有力な根拠があり、かつ、ヒトにおいて発がん性物質としての主要な特性を示すものも該当します。
グループ2A(おそらくヒトに対して発がん性がある)には95要因が分類されています。主に、動物試験において発がん性を示す有力な根拠があり、ヒトにおける発がん性を示し得る一定の根拠があるものの決定的ではないものが該当します。より発がん性の根拠が弱いグループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)には323要因が分類され、主に、動物試験において発がん性を示す有力な根拠があるものの、ヒトにおける発がん性を示す情報がない又はほとんどないものが該当します。
残りの500要因(全体の約半数)は、グループ3(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類されています。グループ3は、発がん性がないことを示すわけではなく、主に、発がん性の有無を判断するためのデータが不足しているものが該当します。
IARCの発がん性分類は、人に対する発がん性を示す根拠の強さを示すものであり、一定量ばく露した際にどの程度がんが発生する可能性があるかを示すものではありません。同一グループ内のある要因と別の要因とでは、発がんの可能性や程度は異なるため、両者を比較することは適切ではありません。
グループ | 評価内容 | 要因の数 | 例 |
---|---|---|---|
1 | Carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性がある) |
128 | コールタール、アスベスト、たばこ、カドミウム、ディーゼルエンジンの排気ガス、アルコール飲料、加工肉等 |
2A | Probably carcinogenic to humans (おそらくヒトに対して発がん性がある) |
95 | アクリルアミド、非常に熱い飲み物(65℃以上)、ヒドラジン、夜間勤務、レッドミート(赤肉)等 |
2B | Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性がある可能性がある) |
323 | ベンゾフラン、フェノバルビタール、わらび、漬物、ガソリン等 |
3 | Not classifiable as to its carcinogenicity to humans (ヒトに対する発がん性について分類できない) |
500 | カフェイン、お茶、コレステロール等 |
(出典) Preamble to the IARC Monographs on the Identification of Carcinogenic Hazards to Humans (amended January 2019)
Agents Classified by the IARC Monographs, Volumes 1–135
Q4 今回のIARCの評価結果は?
IARCは、PFOAについて、4つの発がん性分類のうち「グループ1」、PFOSについて「グループ2B」と評価しました(表3)。
物質 | 一連の科学的根拠 | 総合評価 | ||
---|---|---|---|---|
人に対する発がん性(ヒトの疫学研究) | 動物に対する発がん性(ラットやマウスなどの動物試験) | 発がんの機序(発がん性物質としての主要な特性) | ||
パーフルオロオクタン酸(PFOA) | 限られている(腎細胞がん、精巣がん) 不十分(その他のがん種) |
十分 | 強い ・暴露されたヒト※4,7 ・ヒト初代培養細胞※5,7,8 ・実験系※4,5,7,8,10 |
グループ1 |
パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS) | 不十分 | 限られている | 強い ・暴露されたヒト※4,7 ・ヒト初代培養細胞※5,7,8 ・実験系※4,5,7,8,10 |
グループ2B |
※ 発がん性物質としての主要な特性を示す。
※4 エピジェネティックな変化
※5 酸化ストレス
※7 免疫抑制
※8 受容体を介した影響を調整
※10 細胞の増殖、死、栄養供給の改変
(参考)IARC Monographs Q&A[PDF:71KB]
Q5 今回IARCが、パーフルオロオクタン酸(PFOA)の発がん性分類を「グループ1」とした根拠は?
IARCは、「ヒトに対するがんの証拠は限定的である」としながらも、以下の理由から、4つのグループのうち、1(ヒトに対して発がん性がある)に分類しました。
・実験動物の知見:雄のSDラットを用いた混餌投与試験で、肝細胞腺腫(又は肝細胞がんとの組合せ)、膵腺房細胞腺腫(又は腺がんとの組合せ)を引き起こし、肝細胞がんの発生との間に有意な正の相関が見られ、雌のSDラットを用いた混餌投与試験で、子宮腺がんを引き起こし、膵腺房細胞腺腫(又は腺がんとの組合せ)の発生との間に有意な正の相関が見られており、十分な(sufficient)証拠が得られている。
・発がん性物質としての特性の知見:母親の血清PFOA濃度とその子どもでのDNAメチル化、及び職業ばく露とがん関連miRNA発現との関連等がみられており、強い(strong)証拠が得られている。
・ヒトの知見:腎細胞がん、精巣がんに関する証拠が報告されているが、限られている(limited)。そのほかのがん種については、証拠は不十分である(inadequate)。
Q6 今回IARCが、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の発がん性分類を「グループ2B」とした根拠は?
IARCは、以下の理由から、4グループのうち、2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)と分類しました。
・実験動物の知見:雌のSDラットを用いた混餌投与試験において、肝細胞腺腫(又は肝細胞がんとの組合せ)の発生との間で有意な正の相関が見られたが、報告は1報のみであり、証拠は限られている(limited)。
・発がん性物質としての特性の知見:ヒト初代培養細胞及び実験系の両者において、酸化ストレスを示し、甲状腺及びアンドロゲン様作用を有することについて、強い(strong)証拠が得られている。
・ヒトの知見:PFOSばく露との関連に関して数報報告されている中でも、正の関連を報告する知見は少数であり、かつ、精巣がん、乳がん、甲状腺がんの間で結果も一致しておらず、証拠は不十分である(inadequate)。
Q7 PFOAやPFOSを摂取すると、がんを引き起こすのか?
IARCの評価は、がんを引き起こす可能性に関する科学的根拠の強さを評価したものであり、これだけをもって、人における実際の発がんの確率や重篤性を示すものではありません。IARCも、今回同時に公表したQ&Aにおいて、“the classification does not indicate the level of cancer risk associated with exposure at different levels or in different scenarios.”(この分類は、ばく露レベルや異なるシナリオに関連する発がんリスクの違いを示すものではない。)としています。
PFOA、PFOSが、実際の生活環境下において人に対して健康への悪影響を及ぼすかについては、「リスク評価」(下の図の4)を行う必要があります。今回IARCが行ったのは、1の「危害要因(ハザードの特定)」です。食品安全委員会も含むリスク評価機関は、発がん性以外の消化吸収代謝への影響や生殖毒性などさまざまな有害影響にも着目して、2の「危害要因(ハザード)特性評価」を行い、さらには3の「ばく露評価」も合わせて「リスク評価」を行います。
2023年4月に開催された第16回コーデックス委員会食品汚染物質部会は、「FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)がリスク評価を行う優先リスト」に、PFOA、PFOSを含む「有機フッ素化合物」を加えました。JECFAはIARCが行った発がん性の評価に加えて、発がん性以外の消化吸収代謝への影響や生殖毒性など様々な有害影響にも着目して「危害要因(ハザード)特性評価」を行い、さらに「ばく露評価」も合わせた「リスク評価」を今後数年以内に行う予定です。
<参考リンク>さらにPFASについて知りたい方へ
● 食品安全委員会におけるPFASの食品健康影響評価について
食品安全委員会は、2023年2月より「有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループ」を立ち上げ、PFOS、PFOA及び PFHxSを中心に食品健康影響評価を実施しています。ワーキンググループにおける審議状況は食品安全委員会のウェブページに掲載していますので、ご確認ください。
https://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/pfas.html
● ファクトシート「パーフルオロ化合物(概要)」(2020年10月27日更新)
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/f03_perfluoro_compounds.pdf[PDF:778KB]
● その他PFASに関する各種情報について
環境省が設置した「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」
(https://www.env.go.jp/water/pfas/pfas.html)の監修のもと、2023年7月に以下の資料が作成・公表されています。
・PFOS、PFOAに関するQ&A集(2023年7月作成、2024年8月更新)
https://www.env.go.jp/content/000242834.pdf[PDF:844KB]
・PFASに関する今後の対応の方向性
https://www.env.go.jp/content/000150418.pdf[PDF:418KB]