粉ミルクは無菌とは限りません!飲む直前に70℃以上のお湯で調乳し、速やかに消費しましょう〜クロノバクター・サカザキについて〜

令和5(2023)年5月31日作成

 

クロノバクター・サカザキ挿絵

 

Q&Aの一覧

Q&A

Q1:クロノバクター・サカザキとは?

A1:クロノバクター・サカザキ(Cronobacter sakazakii)は、ヒトや動物の腸管、食品や自然環境に広く分布する細菌です。

   国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)に所属し腸内細菌の研究で世界的に知られていた坂崎利一博士の功績をたたえ、米国人科学者が名付けました。

   以前はエンテロバクター(Enterobacter)属に分類されていましたが、2008年にクロノバクター属に再分類されました。

   菌株のわずかな遺伝子の違い、菌が含まれる食品の成分などにより耐熱性が変化し、6℃〜47℃で増殖が可能です。また、乾燥した環境下でも長期間生残するとの報告もあります。

Q2:人の健康にどのような影響があるの?

A2:クロノバクター・サカザキは、健康な人の腸管内にも存在しますが、健康被害が起こるリスクは少ないとされています。しかし、乳幼児、特に未熟児[1]や免疫不全児、低出生体重児は感染すると敗血症や壊死性腸炎を発症することがあり、重篤な場合には髄膜炎を併発し、死亡したり、重度の神経学的後遺症が残ったりする場合があります。

[1] 母子保健法第6条で、「未熟児とは、身体の発育が未熟のまま出生した乳児であって、正常児が出生時に有する諸機能を得るに至るまでのものをいう。」 とされている(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000141別ウインドウで外部サイトが開きます)。

Q3:健康被害の例は?

A3:1958年にイギリスで新生児敗血症および髄膜炎の乳児から初めてこの菌が分離されました。それ以降、世界各地で乳児を中心に壊死性腸炎、脳膿瘍および敗血症などの症例が報告されています。2020年に公表された米国疾病予防管理センター(CDC)の研究報告によると、1961年〜2018年に、世界中で183人の患者が確認されています(うち、日本は2人)。

   乳児用調製粉乳(粉乳、粉ミルク)を介したクロノバクター・サカザキの感染例が報告されています。国連食糧農業機関(FAO) /世界保健機関(WHO) 合同専門家会議において2004年と2006年、この菌のリスクに関する科学的な考察が行われ、この菌による粉ミルクの汚染は、乳児の感染及び疾患の原因になるとの結論になりました。

   2021年9月6日〜2022年1月4日にかけて、米国ミネソタ、オハイオ、テキサスの3州で乳児4名の感染事例が確認され、うち2名は亡くなりました。特定企業の粉ミルクが原因食品として疑われ、製品がリコール(自主回収)されました。米国CDCは患者由来検体と工場から採取された検体について調べましたが、それぞれから得られたクロノバクター・サカザキの遺伝学的特徴が異なっており、この粉ミルクが原因とは確定できませんでした。

   本件では、リコール(自主回収)の対象となった製品が米国内外で広く売られていたため、粉ミルクの供給不足が起こり、問題となりました。

   日本では2007年に多発性脳膿瘍が、2009年に敗血症がそれぞれ1例報告されていますが、感染経路は明らかとなっていません。 2021 年にも、 クロノバクター・サカザキ による菌血症を伴う肺炎を発症した 極低出生体重児の症例報告が公表されましたが、粉ミルクから菌の検出はなかったとされています。

Q4:粉ミルクでの検出例は?

A4:海外の報告として、世界35 カ国で製造された粉ミルク141例中20例(14.2%)、11カ国で製造された粉ミルク58例中8例(13.8%)からクロノバクター・サカザキが分離されたとの報告もあり、この菌は世界の粉ミルク中に広く存在する可能性があると考えられます。

   一方、国内については、2006〜2007年度に国産の粉ミルク200製品を調査した結果、6製品(3%)から検出されたとする報告や、国内の粉ミルク及び類似製品の100検体の実態調査から、微量ながら4検体で検出されたとの報告があり、国内の粉ミルクにも存在しうることが明らかとなっています。

Q5:どうして粉ミルクに細菌が含まれるの?

A5:粉ミルクは、乳とその他の原材料を混合した後、殺菌して粉状にしてから容器に充填する、又は、乾燥させた粉状の乳とその他の原材料を混合してから容器に充填するといった方法によって製造されます。製造方法や製品の特性からすべての工程を通じて密閉状態を保つことが難しいとのことです。したがって、粉ミルクは完全な無菌とはなっていません。

   Q1に記載したように、クロノバクター・サカザキは広く自然界に存在することから、粉ミルクにはこの菌が混入する可能性があると考えられます。

Q6:家庭でできる対策は?

A6:未開封の粉ミルクの菌数は可能な限り低く製造されていますが、クロノバクター・サカザキは広く自然界に存在することから、開封後や調乳時にも混入することが想定されます。クロノバクター・サカザキは70℃以上のお湯で調乳することにより殺菌できます。調乳は必ず、70℃以上のお湯で行ってください。

   加熱により、栄養素が壊れるのではないかと心配される方もいると思いますが、粉ミルクは、70℃以上のお湯で調乳したときのビタミンの損失を考慮して製造されているため、栄養素の不足の心配はありません。

   哺乳瓶で調乳する際はやけどに注意し、哺乳瓶の外側を流水や氷水の入った容器に浸けて冷やすなどして、必ずミルクを人肌程度に冷ましてから与えてください。

   また、哺乳瓶も密閉されているわけではないので、置いている間に飲み口などから菌が混入することがあります。

   クロノバクター・サカザキは6℃〜47℃で増殖可能で、至適温度の25℃では急激に増えるとされています。粉ミルクは飲む直前に調乳し、速やかに消費しましょう。 

ガイドラインの概要

出典:厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/dl/070604-1a.pdf[PDF形式:239KB]外部サイトのPDFファイルを別ウインドウで開きます

 

Q7:飲むのに時間がかかる子ですが、どれくらいまでなら大丈夫でしょうか

A7:WHOの「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」によると、「調乳後2時間以内に消費されなかった場合は全て廃棄すること」とされています。

Q8:災害時、外出時など、熱いお湯を準備できません

A8:熱いお湯が準備できない場合、乳児用液体ミルクを使用するのも一つの方策です。乳児用液体ミルクは乳児が安全に飲めるように滅菌されているので、そのまま与えることができます。

   なお、いったん開封してしまうと、菌が入る可能性があることから、粉ミルクを調乳する際と同様に速やかに消費しましょう。

Q9:離乳食も危険なのでしょうか?

A9:市販の離乳食は、レトルトパウチ、瓶、乾燥品等、様々なものがあり、各メーカーにおいて衛生管理されて製造されています。このため、保存方法や与え方など、注意事項をよく読んで適切に使用することが大切です。また、菌の混入や増殖を避けるため、開封後はすぐに与えましょう。

   家庭で離乳食を作る場合も、他の食中毒予防の観点からも全ての食材をしっかり加熱調理し、速やかに消費することは、粉ミルクと同じです。多めに作った場合は1食分ずつに小分けして速やかに冷凍すると良いでしょう。食べさせる際には再度、十分に加熱し殺菌する必要があります。

リンク

・食品安全委員会:平成 21 年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」9エンテロバクター・サカザキ

https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_9.pdf [PDF形式:819KB]PDFファイルを別ウインドウで開きます

・厚生労働省:乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインについて

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/070604-1.html別ウインドウで外部サイトが開きます

Enterobacter sakazakiiに関するQ&A(仮訳)

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/050615-1.html別ウインドウで外部サイトが開きます

参考文献

・食品安全委員会:※平成 21 年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」9エンテロバクター・サカザキ

https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_9.pdf[PDF形式:819KB]PDFファイルを別ウインドウで開きます

・Iversen C et al.: Cronobacter gen. nov., a new genus to accommodate the biogroups of Enterobacter sakazakii, and proposal of Cronobacter sakazakii gen. nov., comb. nov., Cronobacter malonaticus sp. nov., Cronobacter turicensis sp. nov., Cronobacter muytjensii sp.nov., Cronobacter dublinensis sp. nov., Cronobacter genomospecies 1, and of three subspecies, Cronobacter dublinensis subsp. dublinensis subsp. nov., Cronobacter dublinensis subsp. lausannensis subsp. nov. and Cronobacter dublinensis subsp. lactaridi subsp. nov. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 2008; 58:1442-1447)

https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijs.0.65577-0#tab2別ウインドウで外部サイトが開きます

食品安全委員会:菌末添加調製粉乳評価乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に基づく調製粉乳の審査事項の設定に係る食品健康影響評価について(2021年3月9日)

https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20191009001

・岡田由美子:Cronobacter属菌について。日本食品微生物学会雑誌2017; 34(2):65-75

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm/34/2/34_65/_article/-char/ja/別ウインドウで外部サイトが開きます

・五十君靜信:新しい食中毒菌 Cronobacter spp. (Enterobacter sakazakii)-A brief Review of Cronobacter spp. :New Food-borne Pathogens-.日本食品微生物学会雑誌2010; 27(2): 75-79

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm/27/2/27_2_75/_article/-char/ja/別ウインドウで外部サイトが開きます

・厚生労働省:厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長及び監視安全課長通知「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドラインについて」。食安基発第0605001号及び食安監発第0605001号平成19年6月5日

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/08/dl/s0817-6j_0001.pdf[PDF形式:547KB]外部サイトのPDFファイルを別ウインドウで開きます

・FDA (2012) The bad bug book: Foodborne pathogenic microorganisms and natural toxins

https:/www.fda.gov/food/foodborne-pathogens/bad-bug-book-second-edition別ウインドウで外部サイトが開きます

・厚生労働省:育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A(仮訳)(FAO/WHO専門家会合 2004年2月)

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/070604-1.html別ウインドウで外部サイトが開きます

・農林水産省:食品安全に関するリスクプロファイルシート(細菌)クロノバクター属菌(2016年11月30日)

https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard_microbio-22.pdf[PDF形式:159KB]外部サイトのPDFファイルを別ウインドウで開きます

・WHO:Safe preparation, storage and handling of powdered infant formula Guidelines 2007

https://www.who.int/publications/i/item/9789241595414別ウインドウで外部サイトが開きます

・FAO/WHO:Enterobacter sakazakii (Cronobacter  spp.) in powdered follow-up formula. Meeting report MRA series 15

https://www.who.int/publications/i/item/9789241563796別ウインドウで外部サイトが開きます

・萩原博和 他:乳児用調製粉乳(PIF)の調乳および保存方法がEnterobacter sakazakiiの生残と増殖に及ぼす影響:食品衛生学雑誌2009; 50(3):109-116

https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi/50/3/50_3_109/_article/-char/ja/別ウインドウで外部サイトが開きます

・食品由来感染症と食品微生物 仲西寿男, 丸山 務 監修 2009年

Cronobacter and Powdered Infant Formula Investigation(CDC 2022年5月24日更新版)

https://www.cdc.gov/cronobacter/outbreaks/infant-formula.html 別ウインドウで外部サイトが開きます

・FDA Investigation of Cronobacter Infections: Powdered Infant Formula (February 2022)(FDA 2022年8月1日更新版)

https://www.fda.gov/food/outbreaks-foodborne-illness/fda-investigation-cronobacter-infections-powdered-infant-formula-february-2022#622f1cc391bf6 別ウインドウで外部サイトが開きます

・BfR: Recommendations for the hygienic preparation of powdered infant formula. Updated BfR Opinion no. 009/2022 of 29 March 2022

https://doi.org/10.17590/20220510-104706別ウインドウで外部サイトが開きます

・Losio MN, Pavoni E, Finazzi G, Agostoni C, Daminelli P, Dalzini E et al.: Preparation of powdered infant formula: Could product’s safety be improved? JPGN 2018; 67: 543-546

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6155361/別ウインドウで外部サイトが開きます

・伊吹 圭二郎, 橋田 暢子, 市村 昇悦, 五十嵐 登, 畑崎 喜芳:Enterobacter sakazakii による多発性脳膿瘍をきたした極低出生体重児の一例。日本周産期・新生児医学会雑誌(Journal of Japan Society of Perinatal and Neonatal Medicine )2009;45 (1),:129-133

・寺本知史, 田邊行敏, 岡野恵里香, 小林正久 :Enterobacter sakazakii による敗血症をきたした超低出生体重児の 1 例. 日本周産期・新生児医学会雑誌2009; 45:718

・横山 浩子, 児玉 祐一, 高橋 宜宏, 岡田 聡司, 久保田 知洋, 上野 健太郎 他:Cronobacter sakazakii による菌血症を伴う肺炎を発症した乳児。日本小児科学会雑誌2021; 125(6): 936

・Muytgens HL, Roelofs-Willemse H, Jaspar GHJ: Quality of powdered substitutes for breast milk with regard to members of the family Enterobacteriaceae. Journal of Clinical Microbiology 1988; 26(4): 743-746

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3284901/別ウインドウで外部サイトが開きます

・Strysko J, Cope JR, Martin H, Tarr C, Hise K, Collier S, Bowen A: Food Safety and Invasive

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7181934/別ウインドウで外部サイトが開きます

Cronobacter Infections during Early Infancy, 1961–2018. Emerging Infectious Diseases 2020; 26(5) :857-865 DOI:

https://doi.org/10.3201/eid2605.190858別ウインドウで外部サイトが開きます

・厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会(堤委員提出資料):ベビーフードを活用する際の留意点について。平成30年12月27日

https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000464804.pdf[PDF形式:547KB]外部サイトのPDFファイルを別ウインドウで開きます

・食品安全委員会「乳幼児を対象とする調製液状乳に係る乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正すること。」に関する食品健康影響評価

https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kya18040200102&fileId=201別ウインドウで食品安全総合情報システムが開きます