食品安全委員会の20年を振り返る

第4回 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ

2023年(令和5年)8月17日

食品安全委員会委員 松永和紀

 

国民の皆様へ  「健康食品」について
気をつけてほしいこと
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  • 「食品」であっても安全とは限りません。
  • 大量に摂ると健康を害するリスクが高まります。
  • ビタミン・ミネラルをサプリメントで摂ると過剰摂取のリスクがあります。
  • 「健康食品」は医薬品ではありません。品質の管理は製造者任せです。
  • 誰かにとって良い「健康食品」があなたにとっても良いとは限りません。

健康の維持・増進の基本は、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、十分な休養です……。

それはよく知ってる。だけど、現実には容易じゃない。だから、不摂生をカバーしてくれる食品を探しているんだよ。

そんな声が聞こえてきます。だから、いわゆる「健康食品」は人気なのでしょうか? その市場規模は今や1兆数千億円に上るとされています。一方で、死者が出るほどの深刻な健康被害を招いた製品もあり、摂った後に体の不調を訴える声や安全性を疑問視する論文も多数あります。

食品安全委員会は、こんな「健康食品」全般の安全性についての見解を取りまとめました。2015年12月のことです。ここまで3回にわたってご紹介してきた「食品健康影響評価」は、特定の物質や微生物のリスク評価を行ったのですが、これは違います。健康効果をうたう食品、健康効果があると期待されて摂られる食品全般について幅広く、注意すべき点について整理しました。

さらに、「国民の皆様へ」と題して当時の佐藤洋委員長とワーキンググループの脇昌子座長(現食品安全委員会委員)が語りかける異例の情報発信もありました。その内容が、冒頭に掲げた5つの項目です。
食品安全委員会が扱ってきたさまざまなハザード(危害要因)の中でも、メッセージ性をこれほど重視して情報発信したものはないでしょう。なぜ食品安全委員会はこのような異例の行動に出たのか? 振り返ります。

「自ら評価」を要請され、ワーキンググループ設置

食品安全委員会は、残留農薬や遺伝子組換え食品など、厚生労働省や農林水産省などから依頼を受けてリスク評価を行っています。ただし、それだけでなく、自らの意思で評価を行う仕組みを持っています(自ら評価)。なにを対象とするか公募し、企画等専門調査会での議論により選定するのです。第1回で取り上げたトランス脂肪酸、第3回のカンピロバクターも「自ら評価」です。

「健康食品」については、「自ら評価をしてほしい」という応募が2013年度と14年度にありました。2015年度にスタートした「機能性表示食品制度」は、13年度から制度創設に向けて検討がはじまっており、健康効果をうたう食品制度への関心が高まっていました。一方で、そうした食品による健康被害の訴えが2000年ごろから繰り返しあり、「無承認無許可医薬品」として薬事法(現在の薬機法)違反に問われた製品もありました。

企画等専門調査会の審議でも、各委員から「健康食品」の安全性を問題視する意見が強く出ました。一方で、特定の製品や成分のデータについて、リスク評価を行えるだけの内容を収集するのは困難、という現実もありました。
残留農薬や添加物等は、どのような試験を行いどうリスクを評価するのか、国際的に共通の考え方とルールがあります。企業がデータを国に提出し専門家がリスク評価した後でないと、製造や販売は認められません。ところが、「健康食品」の多くは、ほかの普通の食品と同じ扱い。食品表示法で規定された情報(原材料や保存方法など)以外の細かな内容、たとえば製造や衛生管理の方法などは、どこにも提出されず公開もされません。

でも、食品を分析すればわかるでしょう……。そう、よく言われるのですが、それも簡単ではありません。そもそも、食品自体が多数の未知の成分を含みます。植物は一説によれば、20万種類の化学物質を含んでいるそうです。分析は、測定したいと思った物質を、条件を整えて測ることはできますが、わからないもの、情報が公開されていないものを第三者が分析するのは非常に難しいのです。

こうした食品としての特性も踏まえ、企画等専門調査会で「健康食品」について、「特定の製品等のリスク評価ではなく、健康食品全般についてのリスクや懸念される事項、留意すべき点等について、食品安全委員会としての見解を取りまとめ、情報発信を行うべき」との提言がまとめられました。
これを受け、食品安全委員会はワーキンググループを設置して4回にわたって検討しました。

摂取した後に体の不調を訴える人が数%いる

「健康食品」の問題点などを語る際に難しいのは、人により「健康食品」の定義が異なることです。ある人は、緑黄色野菜やヨーグルト、納豆などを指し、別の人は、国が定めた「特定保健用食品」や「栄養機能食品」なども含めます。これらではなく、カプセルや錠剤型の食品について語る人もいます。それぞれ定義が異なり議論にすれ違いが起こりやすいのです。

そこでワーキンググループは、医薬品以外で口から摂取され「健康の維持・増進に特別に役立つ」とうたって販売されたり、そのような効果を期待して摂られたりする食品を幅広く「健康食品」とし、検討の対象としました。

そして、安全性の懸念が起きやすいものとして、成分が濃縮され過剰摂取につながりやすいカプセル・錠剤・粉末・顆粒形態の製品、世間で「サプリメント」と呼ばれるものなどを中心に議論。2015年12月、『「健康食品」に関する報告書』をまとめました。

食品のいろいろな画像
健康食品の分類の図
図1 健康食品の分類(出典:消費者庁資料)

報告書では、国民の4〜6割程度が「健康食品」を摂っていること、女性の方が男性よりも摂っていること、摂取した後に体の不調を訴える人が数%はいて、発疹等のアレルギー症状や胃部不快感、下痢、頭痛やめまいなどの症状が報告されていること、その要因等が、根拠とした論文等を明記して解説しました。それらから、「19のメッセージ」もまとめました。

表1 いわゆる「健康食品」に関する 19 のメッセージ
  • 「食品」でも安全とは限りません。
  • 「食品」だからたくさん摂っても大丈夫と考えてはいけません。
  • 同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません。
  • 健康食品」として販売されているからといって安全ということではありません。
  • 天然」「自然」「ナチュラル」などのうたい文句は「安全」を連想させますが、科学的には「安全」を意味するものではありません。
  • 「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」に注意してください。
  • 通常の食品と異なる形態の「健康食品」に注意してください。
  • ビタミンやミネラルのサプリメントによる過剰摂取のリスクに注意してください。
  • 「健康食品」は、医薬品並みの品質管理がなされているものではありません。
  • 「健康食品」は、多くの場合が「健康な成人」を対象にしています。高齢者、子ども、妊婦、病気の人が「健康食品」を摂ることには注意が必要です。
  • 病気の人が摂るとかえって病状を悪化させる「健康食品」があります。
  • 治療のため医薬品を服用している場合は「健康食品」を併せて摂ることについて医師・薬剤師のアドバイスを受けてください。
  • 「健康食品」は薬の代わりにはならないので医薬品の服用を止めてはいけません。
  • ダイエットや筋力増強効果を期待させる食品には、特に注意してください。
  • 「健康寿命の延伸(元気で長生き)」の効果を実証されている食品はありません。
  • 知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものですか。情報が確かなものであるかを見極めて、摂るかどうか判断してください。
  • 「健康食品」を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」です。
  • 摂る際には、何を、いつ、どのくらい摂ったかと、効果や体調の変化を記録してください。
  • 「健康食品」を摂っていて体調が悪くなったときには、まずは摂るのを中止し、因果関係を考えてください。

「天然・自然・ナチュラルだから安全」ではない

この中でとくに重要なのは、「摂取量」を考えるのが大事であること、それに、「天然・自然・ナチュラルは、安全を意味するものではない」ということです。
天然・自然・ナチュラルで、安全ではないものは多数あります。たとえば、市販されているジャガイモでさえも、ソラニン・チャコニン類を微量含んでいます。しかし、量が少ないので、症状は出ません。ところが、栽培や保管が適切でなければ、ソラニン・チャコニン類の含有量は増え、食中毒につながってしまいます。

食品は通常、栄養成分と共に多様な化学物質を含み、重金属や自然に生成される毒性物質なども含有します。しかし、適切に生産され管理された食品を常識的な量、食べるのであれば、それらの摂取量は少なく健康被害を起こすこともほとんどありません。
それに、一般的な食品は、いくら体によいと言われても食べられる量に自ずと限界があります。納豆が体によい、と聞かされても毎日、何百g、何千gとは食べられません。

しかし、「健康食品」の多くは、形態が通常の食品と異なり、成分の抽出や濃縮が施されています。サプリメントはとくに、味やにおいもないため、簡単に多量を摂りやすいようになっています。しかも、毎日摂取するように企業から指示されます。ところが、食品を長期に大量摂取した場合の安全性はほとんど、確認されていないのです。

逆に一部の物質は、長期の大量摂取によるリスクが学術論文等で指摘されています。たとえば、野菜などに含まれるβ—カロテンは栄養成分で、がんや心筋梗塞などの心血管疾患の予防に効果があるとされてきました。しかし、喫煙者がサプリメントとして長期、大量摂取したところ、肺がんの発生リスクを上げた、と報告されています。

セレンや鉄、ビタミンA、ビタミンD、カルシウム、アスコルビン酸(ビタミンC)など、さまざまなサプリメントで、健康被害や長期投与試験でむしろリスクが上がったという結果が報告されています。

なお、「健康食品」の中で特定保健用食品は、企業がデータを国に提出し有効性や安全性を消費者庁と消費者委員会、食品安全委員会が評価しています。しかし、特定保健用食品も、摂取する量と摂り方や期間など、限られた条件内でのデータを確認しているのみです。

「健康食品」は医薬品とは別もの

06.や09.で示されているとおり、「医薬品」ではない、というところも、大きなポイントです。
「健康食品」の中には、医薬品成分やそれに似た成分を違法に添加した「無承認無許可医薬品」があります。2000年ごろから、個人輸入された中国製の「健康食品」により、健康被害が報告されるようになりました。2002年以降、ダイエット目的で消費者が購入した中国製の「健康食品」により肝障害、さらには死亡例が多数報告されるように。詳しく調べられ、医薬品成分と構造がよく似た成分が添加されていることがわかりました。

ほかにも、さまざまな医薬品成分や、未承認成分が添加されたものが販売され、「無承認無許可医薬品」として摘発されています。2023年5月にも、国民生活センターが「健康茶からステロイド成分が検出された」と公表しました。

「健康食品」は医薬品ではないのですから、医薬品のような「効き目」があるはずがないのです。さらに注意すべきは、品質管理の問題点。医薬品は薬機法に基づき「医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準」で要件が定められ、一定の品質が保たれています。それに対して、サプリメント型の健康食品は、医薬品によく似てなんとなく信頼できそうな外見ですが、品質管理は企業任せです。

ワーキンググループの議論では、「健康食品」の同一製造ロットの製品を複数分析したところ、成分が30〜40%違う、というような事例もあった、と紹介されました。成分がしっかりと混ぜられて製造されなかったのか、あるいは保存が悪かったのか、品質管理が適切になされていないのです。同じ製品、同じロットなのに成分量が異なる、ということは、製品一つ一つにおける安全性も担保されない、ということになります。
このほか、鉛や水銀、ヒ素等が不純物として混じる製品も報告されています。

こうした重要な内容が、19のメッセージには盛り込まれました。食品安全委員会のウェブサイトに、報告書や19のメッセージ、Q&Aなどが掲載されているのでお読みください。

いわゆる「健康食品」についての機関誌の画像
図2 食品安全委員会発行の冊子
報告書とメッセージが1冊にまとめられており、ダウンロードできる。

リスク情報を知らず、期待を膨らませる消費者へ

座長として2015年、メッセージを発出した脇委員に当時のことを尋ねてみました。
「私はあの頃、新開発食品専門調査会の専門委員として特定保健用食品のリスク評価を行っていました。「健康食品」は、医薬品と違ってその効果は限られたもので、しかも、健康を害することもあるのに、そのような情報は消費者の目に触れにくく、効果への期待だけを大きくしやすい状態に置かれていました。そうしたことを憂い、メッセージをまとめ、「健康食品」で健康被害が出ることをなくしたい、という思いを込めました」。
異例のメッセージの陰には、委員やワーキンググループ専門委員、事務局職員らの熱い思いがありました。

その後、消費者庁もこの問題に積極的に取り組み、国立健康・栄養研究所とも連携して「健康食品5つの問題」を整理。「健康食品を利用する場合には記録をつけ、不調を感じたら使用中断と医療機関受診を」と、健康食品手帳の作成を呼びかけています。

健康食品5つの問題の画像 健康食品手帳の画像

図3 消費者庁「健康食品5つの問題」(出典:消費者庁資料)

また、厚生労働省は食品衛生法を2020年に改正し、「指定成分等含有食品」についての新たな制度をはじめました。健康効果を期待させる成分、食品が多数ある中で、国がさまざまな健康被害に関する情報を収集し調査を行い、審議会などが「特別の注意が必要」と判断したものが「指定成分」です。

指定成分になると、含有する食品を取り扱う営業者は、顧客から健康被害などの情報を得たら都道府県等にすぐに届けなければなりません。都道府県等は国に報告し、国が情報を集約して判断でき、迅速な注意喚起や改善指導、販売禁止措置などにつながります。また、製造や加工を行う場合には、国が定める基準、適正製造規範(GMP)を守らなければなりません。さらに、「指定成分等含有食品」であり、特別の注意を必要とする成分またはものであることを、容器包装に表示しなければなりません。
現在、表2の4つの物質が指定成分に指定されています。

表2 厚生労働省が定めた指定成分等(出典:厚生労働省資料)
厚生労働省が定めた指定成分等の表

「健康食品を買って害を買う」を避けてほしい

食品安全委員会が「健康食品」についてのメッセージを出してから8年がたちました。さて現在、「健康食品」の状況は改善されているのでしょうか?

ワーキンググループ座長を務めた脇委員はこう語ります。「さまざまな健康情報が溢れ、その後加わった『機能性表示食品』も含めてたくさんの健康食品が出回り、その中には、残念ながら、未だに医薬品が入った製品もあります。またマスコミもSNSも、消費者心理をあおるような広告や販売方法に満ちています。個人が冷静に、的確な判断をすることがますます難しくなったように感じています。今なお、食品安全委員会が出したメッセージの重要性は変わりません。健康食品を買って害を買ってしまうことにならないように、ぜひ皆様にメッセージを読んでいただきたいと思います。私たちも、健康食品やサプリメントについて注視し続けたいと思います」

脇委員の肖像画
ワーキンググループ座長を務めた脇委員

<参考文献>