【読み物版】 [生活の中の食品安全 −調理とリスクマネジメント− (食品安全委員会委員 石井 克枝) その1 ]  平成29年3月17日配信


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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】
 [生活の中の食品安全  −調理とリスクマネジメント− (食品安全委員会委員 石井 克枝) その1]  平成29年3月17日配信
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今月のe-マガジン【読み物版】「生活の中の食品安全」では、「調理とリスクマネジメント(リスク管理)」と題してお送りします。
もしかしたら、「調理」と「リスクマネジメント」と何が関係するのだろう、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちは、日々、キッチンで調理によって食品についてのリスクマネジメントを行っています。今号は、当委員会の石井克枝委員から、調理とリスクマネジメントについて解説します。

 

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1.調理の必要性 −「安全性」と「嗜好性」の向上−
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私たちは長い歴史の中で、植物や動物を食料として、より安全に、よりおいしく食べるために調理をしてきました。つまり、安全性と嗜好(しこう)性の向上を図ってきました。
調理には、次の三つの段階があります。
■非加熱操作;「洗う」、「切る」、「混ぜる」など
■加熱操作;「煮る」、「焼く」、「揚げる」など
■調味;「味をつける」
調理に関わる食べ物のリスクの多くは、食中毒を起こす原因となる細菌、ウイルス、寄生虫、かび毒・自然毒などに関するものです。リスクを減少させるための調理のポイントを知り、食べ物をつくって口に入るまでの、最終段階である調理でリスクマネジメントしていきましょう。

 

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2.調理の入り口「洗うこと」によるリスクの減少
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食中毒を起こす原因物質は、私たちの身の回りに存在しています。それらの原因物質を除くためにすべきことは、まず、「しっかり洗う」ことです。食品のみならず、調理する人の手、調理器具を洗うことによって除去します。これが調理の入口として大切なことです。
例えば、かつて卵はサルモネラ(※1)の汚染が問題となり、現在では流通する前に殺菌剤を用いるなどして殻を洗っています。きれいに洗った手で殻を割りたいものです。手の傷が化膿すると、そこには黄色ブドウ球菌(※2)があるかもしれませんし、体調が悪い場合、原因がノロウイルス(※3)や食中毒菌の場合、調理する人が原因となって二次感染を助長する場合があります。けがをした時、体調が悪い時は要注意です。

 ※1 動物の腸管などに生息する腸内細菌。食中毒の主症状は、激しい腹痛、下痢、発熱、おう吐。
 ※2 ヒトや動物の表皮や粘膜等に常在する細菌で、毒素を産生し食中毒の原因となる。主症状は、吐き気、おう吐、腹痛、下痢。
 ※3 ヒトの腸で増殖し、患者の糞便やおう吐物には大量のウイルスが排出される。ウイルスに汚染された食品などを摂取したことによる食中毒や、ヒトからヒトへの感染も多発。 主症状は、下痢、おう吐、吐き気、腹痛、発熱。

 

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3.「切ること」によるリスクの減少、気を付けたい二次汚染
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切ることは、食べやすく、見た目をよくします。そして、例えば、フグ毒(※1)や、ジャガイモの芽の部分にあるソラニン(※2)など食材に局在する危害要因を除くことでリスクを減少させることにもなります。つまり、切ることは有害な部分を取り除くことになります。
フグ毒は死にいたる猛毒で、卵巣や肝臓などの内臓にあり、素人は絶対にフグをさばいてはいけません。また、ソラニンは加熱しても毒性が減少しないので、ジャガイモは芽や緑の部分をしっかり取り除くことが肝要です。
牛肉の生食規制(※3)で問題になったように、牛肉には腸管出血性大腸菌やサルモネラなど、鶏肉や豚肉はサルモネラやカンピロバクターなどの食中毒を引き起こす細菌汚染のリスクがあります。また、魚にもさまざまな細菌のリスクがあります。
肉や魚を切った後には、二次汚染を招かないように必ず「手」・「まな板」・「包丁」の三つを洗うこと。
特に生で食べる野菜を切るときには気をつけましょう。

 ※1 主な原因物質はテトロドトキシン。重症の場合、呼吸困難で死亡することもある。
 ※2 自然毒の一つで、ジャガイモの芽や表皮が緑色になっている部分に多く含まれる。大量に摂取すると死に至る場合もある。
 ※3 平成23年10月から、食品衛生法に基づいて、生食用食肉の規格基準が設定された。
また、平成24年7月から、食品衛生法に基づいて、牛のレバーを生食用として販売・提供することが禁止されている。

 

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4.「加熱」はリスクの減少に力を発揮、気を付けたい「中心温度」
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■「加熱」はリスク減少の大きな力
腸管出血性大腸菌、サルモネラは75℃で1分、カンピロバクターも75℃で1分、ノロウイルスは85〜90℃で90秒間以上という条件でそれぞれ死滅しますから、加熱はリスク減少に大きな力を発揮します。それでは、実際、加熱調理は、どの程度の温度で調理しているのでしょうか。
・「ゆでる」・「煮る」・「蒸す」という調理では水が熱の媒体であり、100℃までの温度で調理しています。
・「炒める」・「焼く」・「揚げる」という調理では油や空気が熱媒体であり、120〜250℃ぐらいの温度で調理しています。
これらの温度は食中毒微生物を死滅させることのできる温度です。

 

■気を付けたい落とし穴「中心温度」
しかし、実は、食品そのものの温度は、加熱温度と同じではありません。
加熱調理で、熱は食品の周辺から中心に向かい、中心まで熱が伝わるのに時間がかかります。例えば、ハンバーグステーキでは厚さ1cm程度のものは中心の温度が75℃になるのに約8分程度かかります。
つまり、落とし穴は「中心温度」です。
特に炒めものは、120〜200℃という高温ですが、短時間で食品を動かしながら加熱するため、肉や魚を野菜と一緒に炒めると、肉や魚の温度が上がらないこともあります。他の材料とは別に、最初に肉や魚をよく炒めておくか、別に炒めるなど確実にリスクを減少させたいものです。
なお、塊肉を使う牛のステーキなどの場合では、食中毒微生物は主に肉の表面に存在するとされているため、中心部がレアでも、表面の加熱でリスクは減少すると考えられます。

 

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5.低温保存で食中毒微生物は死滅しない! 油断は禁物
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調理したものには、水分、栄養素が十分に含まれ、食中毒微生物にとっては適温(30〜40℃)であり、増殖する条件がそろいます。調理した食品を、なるべく低温で保存するのはこれらの増殖を防ぐためです。
しかし、ここで注意したいのは、低温で保存することが微生物を死滅させる条件ではないことです。
冷蔵庫から出し入れを繰り返すと微生物は増殖していきます。冷凍でも食中毒微生物は死滅しません。
低温保存を過信して、油断してはいけません。

 

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6.かびが生えたら食べない方が良い!
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細菌、ウイルス、寄生虫のような微生物は、「加熱」することでリスクを減少させることができます。
一方、かびが作るかび毒は、洗ったり、加熱したりしても毒性がほとんど低下しません。
また、かびが見えている部分を取り除いても、かび毒が残っているおそれがあります。家庭で、食品にかびが生えてしまったら、その食品は食べないようにします。

 

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7.終わりに
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以上のように、私たちは、日々、キッチンで調理によって食品についてのリスクマネジメントを行っていることが、わかっていただけたと思います。
調理は、食べ物を「よりおいしく」食べるとともに、「より安全に」食べるためでもあることを強く認識して日々の食生活を楽しみましょう。

 

≪参考≫
・食品安全委員会;食品のリスクマネジメント@キッチン
https://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20150612ik1

 

【注】本稿は、食品安全委員会季刊誌「食品安全」35号(平成25年7月号)の「委員の視点 調理とリスクマネジメント(石井克枝委員)」を、e-マガジン【読み物版】として加筆修正して発信しています。
~~◆食品安全委員会季刊誌「食品安全」35号も、ぜひ、ご覧ください。◆~~
https://www.fsc.go.jp/sonota/kikansi/35gou/35gou_8.pdf

 

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