令和2年度 精講:食品健康影響評価のためのリスクプロファイル〜ノロウイルス〜

ノロウイルスに関するQ&A

精講:ノロウイルスに関するQ&A

内閣府食品安全委員会事務局

(令和2年10月30日作成)

(令和2年12月8日更新)

 

 このQ&Aは令和元年度と令和2年度の精講に寄せられた質問のうち、主なものについて掲載しています。

【ノロウイルスに関するもの】

問1 :食品中のノロウイルスを分析した場合、どのくらいの個数があると検出されるのでしょうか。

問2 :ノロウイルスの感染者が冬に増える理由は何が考えられますか。

問3 :ノロウイルスはどれくらい摂取すると感染しますか。

問4 :ノロウイルス食中毒に特有の症状はありますか。

【食品事業に関するもの】

問5 :ノロウイルスに感染した従業員はどの程度休ませ、いつ頃から復帰させればよいですか。

問6 :食品製造の従業員で感染者がいた場合はどの範囲の製品まで廃棄したらよいですか。

問7 :従業員の検査(検便)はどれくらいの頻度で実施するとよいですか。

問8 :コーデックス委員会はノロウイルスの不活化に「85℃〜90℃で90秒以上加熱」が必要と定めています。細菌による食中毒防止のための「食品の中心温度75℃以上、1分間以上」よりも厳しい条件である理由は何ですか。

問9 :次亜塩素酸ナトリウム水溶液でノロウイルスを消毒するための方法を教えてください。

問10:次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤の効果について教えてください。

【予防に関するもの】

問11:消費者が自宅で注意することはありますか。

問12:加熱用のカキを調理する際に注意することを教えてください。

問13:ノロウイルスの食中毒はどのような食品で発生しているのでしょうか。

 


 

【ノロウイルスに関するもの】

問1 :食品中のノロウイルスを分析した場合、どのくらいの個数があると検出されるのでしょうか。
 
ウイルスの遺伝子を検出するリアルタイムPCR法を利用した場合、食品中のウイルスなら食品1g あたり10〜10個程度のノロウイルスを検出することが可能です。また、ウイルスのたんぱく質を検出するエライザ法の場合では食品1g あたり10個程度です。

問2 :ノロウイルスの感染者が冬に増える理由は何が考えられますか。
 
ノロウイルスは低温、乾燥した環境に強いため、冬に感染が拡がりやすいです。夏は高温多湿になるため感染は拡がりにくいですが、ノロウイルスは水分活性が高い食品の中でも生き残るので、夏でも注意する必要があります。

問3 :ノロウイルスはどれくらい摂取すると感染しますか
 
ノロウイルスは少量の摂取でも感染・発症する可能性があります。これまでに実施された、ヒトがノロウイルスを摂取した場合の発症率を求める研究からは、50%のヒトが発症するウイルス量は1,000から3,000個程度と推定されています。なお、動画で紹介した集団食中毒の事例では、一人当たり数百個から数千個のウイルスを摂取していたと推定されています。
 詳しくは、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「3.対象病原体による健康危害解析」の「(8)用量反応関係」(18、19ページ)を参照ください。

問4 :ノロウイルス食中毒に特有の症状はありますか
 
主にみられる症状としては下痢、おう吐、発熱、吐き気及び腹痛ですが、ノロウイルス特有の症状はありません。また、全ての症状が起こるわけではありません。発症までの潜伏期間は通常24〜48時間で、下痢やおう吐といった症状は1〜2日続いた後に治癒し、後遺症もありません。厚生労働省の食中毒統計によると、2007〜17年の間にノロウイルス食中毒による死亡例の報告はありません。
 ただし、誤嚥性肺炎や吐いたものを喉に詰まらせて窒息して死亡するといった事故が発生することがありますので注意が必要です。
  詳しくは、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「3.対象病原体による健康危害解析」の「(1)引き起こされる疾病の特徴」(14〜16ページ)を参照ください。

【食品事業に関するもの】

問5 :ノロウイルスに感染した従業員はどの程度休ませ、いつ頃から復帰させればよいですか。
 
ノロウイルスは一般的に感染後2週間くらい排出され、最長29日まで排出され続けるとの報告があります。従って、従業員を休ませる「一律の期間」を決めることはできません。

問6 :食品製造の従業員で感染者がいた場合はどの範囲の製品まで廃棄したらよいですか。
 感染した従業員が製造に携わったロットの製品については、出荷を止めることが適切です。ノロウイルスの感染者は感染から発症まで2日程度かかるので、発症の2日前からは汚染のリスクがあると考えた方がよいです。施設は消毒が完了するまで営業を再開しないことが適切です。

問7 :従業員の検査(検便)はどれくらいの頻度で実施するとよいですか。
 製造工程と製品の特性をもとに判断する必要がありますので、一律に実施頻度を決めることはできません。厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル*」では「調理従事者等は臨時職員も含め、定期的な健康診断及び月に1回以上の検便を受けること。検便検査には、腸管出血性大腸菌の検査を含めることとし、10月から3月までの間には月に1回以上又は必要に応じてノロウイルスの検便検査に努めること」としています。
* 平成9年3月24日付け衛食第85号別添、最終改正:平成29年6月16日付け生食発0616第1号

問8 :コーデックス委員会* はノロウイルスの不活化に「85℃90℃で90秒以上加熱」が必要と定めています。細菌による食中毒防止のための「食品の中心温度75℃以上、1分間以上」よりも厳しい条件である理由は何ですか。
 
加熱によるウイルスの不活化は、加熱温度と加熱時間の他に、存在するウイルス粒子の数及びウイルスが存在する環境(乾燥状態、液体の中、有機物が多いか少ないか又はpH 等)の影響を受けます。また、食品中に存在するウイルスはタンパク質で保護されているため、確実に不活化させるためには、厳しい加熱条件が必要です。
 コーデックス委員会、WHO、米国は、ヒトの腸管から排泄されるウイルスで、ノロウイルスとほぼ同じ形態のもののうち、加熱や化学物質に対する抵抗性が強いとされているA型肝炎ウイルスの不活化条件をもとに、調理の加熱温度と時間を規定しています。日本も「大量調理施設衛生管理マニュアル」で「二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85〜90℃で90秒間以上」としています。
 詳しくは、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「2.対象病原体」の「(7)不活化効果 a.加熱」(10、11ページ)を参照ください。
* コーデックス委員会は消費者の健康の保護と食品の公正な貿易の確保を目的とした国際機関であり、国際的な食品規格を定めている

問9 :次亜塩素酸ナトリウム水溶液でノロウイルスを消毒するための方法を教えてください
 
塩素濃度50ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をノロウイルスに直接作用させると不活化できます。消毒する対象物や消毒方法によっては塩素濃度が下がるので、適切な濃度に調製してください。
 例えば、調理器具等を消毒する時には、洗剤等で十分に洗浄した後、塩素濃度が200 ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸すようにペーパータオル等で拭きます。なお、加熱できるものは、熱湯で加熱すると効果があります。
 トイレの消毒には塩素濃度が300 ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸すようにペーパータオル等で拭いてください。
 詳しくは、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「5.食品製造者・調理従事者に起因する食中毒」の「(5)リスクを低減するために取り得る対策の情報」」(58〜60ページ)を参照ください。

問10:次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤の効果について教えてください。
 
次亜塩素酸ナトリウムは、ノロウイルスの不活化に有効な薬剤として最も使用されています。一方、それ以外の消毒剤については主にネコカリシウイルスを用いた実験で効果の有無が確かめられていますが、ノロウイルスそのものを用いた実験でないため、ノロウイルスに対してどれほど効果があるかはわかっていません。
 詳しくは、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「2.対象病原体」の「(7)不活化効果 c.消毒剤等」(11、12ページ)及び別添資料2別ウインドウで開きます(89〜93ページ)を参照ください。

【予防に関するもの】

問11:消費者が自宅で注意することはありますか。
 
自宅でも調理従事者と同じように注意を払ってください。特に手洗いが重要で、石鹸でウイルスを物理的に洗い流すことが大切です 。その他、日頃の健康状態に気をつけること、十分に加熱をしていない食品から調理器具やほかの食品へウイルスが移ってしまう「二次汚染」に注意すること、生の野菜・果物はよく洗うこと、下痢・おう吐の人との接触を避けることなどが考えられます。患者の看護をする場合は十分注意して、接触後はよく手を洗ってください 。
 詳しくは、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「5.食品製造者・調理従事者に起因する食中毒」の「(5)リスクを低減するために取り得る対策の情報」」(58〜60ページ)を参照ください。

問12:加熱用のカキを調理する際に注意することを教えてください。
 加熱用のカキのほか、むき身と一緒にパックに入っている塩水にノロウイルスが含まれている可能性があります。開封する際に水しぶきを飛ばすと周りの人や食品を汚染するので注意してください。また、生ガキを取り扱った後に手を洗わずに別の食品を触ったりすると、ノロウイルスが付着するおそれがありますので注意してください。
 なお、ノロウイルス食中毒の多くはカキ以外の食品を食べることによって発生しています。これらの食品の多くはノロウイルスに感染した従業員から汚染されていますので、食品を取り扱う事業者は日頃の衛生管理に注意を払うことが大切です。
 「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「4.カキを中心とした二枚貝に起因する食中毒」の「b.加工段階」」(41、42ページ)を参照ください。

問13ノロウイルスの食中毒はどのような食品で発生しているのでしょうか。
 食品からノロウイルスを検出することが難しいことから、発生したノロウイルス食中毒の約7割については原因となった食品が特定されていません。原因となった食品、食事が判明した事例のうち、カキによるものは1割未満になっています。その他の原因となった食品は、そうざい、菓子類、きざみのり、井戸水等、様々です。調理従事者による二次汚染を原因としたものが非常に多く、ノロウイルス食中毒はあらゆる食品で発生する可能性があります。
 詳しくは「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」別ウインドウで開きますの「3.対象病原体による危害特性」の「(2)食中毒の原因食品」(21〜25ページ)を参照ください。

 

(参考)厚生労働省のホームページでもノロウイルスに関するQ&Aを公開していますのでご参照ください。
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」別ウインドウで開きます(外部サイト)