リスク評価

魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価についてのQ&A

 
Q1.
なぜ、今「食品健康影響評価」が必要なのでしょうか。
A.
 平成16年7月23日、厚生労働省より食品安全委員会委員長あてに、魚介類等に含まれるメチル水銀に係る食品健康影響評価の依頼があったことから、食品健康影響評価の検討が行われました。厚生労働省が諮問を行った理由は、JECFAが平成15年6月中旬に胎児や乳児がより大きなリスクを受けるのではないかという懸念からメチル水銀の再評価を実施したこと、また、欧米諸国においても、妊婦等を対象とした摂食の注意事項が公表されたことから、厚生労働省が平成15年6月3日に発表した「水銀を含有する魚介類等の摂取に関する注意事項」を見直すためと聞いています。
Q2.
耐容摂取量」の根拠となるデータは、主としてフェロー諸島及びセイシェル共和国での相反する研究結果と聞いておりますが、食品のリスクは、人種、年齢、食習慣等の要件によって大きく異なると考えられますので、日本人にとっての「食品健康影響評価」を行うためには、我が国における独自のデータ等に基づく科学的知見が採用されるべきではないのですか。
A.
 メチル水銀は化学物質なので、食品の種類を問わず、食品に含まれる量が問題となりますが、一方で、日本人の魚を食べる食習慣・食文化を踏まえた日本人集団における独自の調査に基づいた食品健康影響評価を行うことが望ましいと考えております。
 しかしながら、そのような研究は成果を出すのに少なくとも10年はかかり、予算もつきにくいといった事情があるため、現時点で得られている知見として、フェロー諸島あるいはセイシェル共和国で実施された疫学調査に基づいて評価が行われました。両研究は、国際的評価機関であるJECFA等の評価の根拠として採用されている知見であり、また、民族的な違い、文化的背景や自然環境が大きく異なっているにもかかわらず、安全を見越した毛髪水銀濃度と判断した数値が近いものでありました。
 今後、日本における疫学研究結果が発表されれば、再評価が検討されるものと考えます。
Q3.
ハイリスクグループにかかるメチル水銀の耐容週間摂取量について、2003年にJECFAが1.6μg/kg体重/週の評価を行っていますが、今回の「食品健康影響評価」で食品安全委員会が算出した2.0μg/kg体重/週との違いについて教えてください。
A.
 当委員会は、JECFAと同様に、フェロー諸島とセイシェル共和国における研究を基に評価していますが、安全を見越した毛髪水銀濃度と判断した数値及び不確実係数の取り方の違いによって、JECFAとは異なる耐容週間摂取量を設定しています。
 不確実係数については、通常、動物実験データを用いて人への毒性を推定する場合、動物と人との種差として「10倍」、さらに人と人との個体差として「10倍」、全体として「10×10=100」を用いる場合が多いのですが、今回の評価では、使用するデータが動物実験ではなく、人のデータであることなどから、以下の通りとしています。
 毛髪水銀濃度と血中水銀濃度の比について、調査データの変動幅から、その幅を2とし(JECFAと同じ)、またメチル水銀が排泄される時の代謝の変動データから、その変動幅を2(JECFAは3.2)としました。その結果、不確実係数は、4を採用しています。
 これは、JECFAが耐容週間摂取量の評価を行った際、不確実係数の数値を小さくする余地が残っていると指摘していることを考慮して検討を行ったものです。
 以上の点から、JECFAの耐容週間摂取量(1.6μg/kg体重/週)とは異なる数値として2.0μg/kg体重/週を算出しました。
Q4.
なぜ乳児・小児をハイリスクグループとしなかったのですか。
A.
 評価書において、ハイリスクグループとは、感受性が高く曝露も最も高い集団のこととし、胎児が該当するとしました。
 乳児については、母親の血液中のメチル水銀が母乳にほとんど移行しないこと、ミルク等からの摂取もないことが確認されていることから、ハイリスクグループとはしませんでした。
 また、小児については、メチル水銀を対外に出す排泄機能も成人と同様に働くこと、セイシェル小児発達研究において、子供の神経系の発達にメチル水銀に関連する有害影響が証明されなかったこと等から、ハイリスクグループとはしませんでした。
Q5.
魚介類に含まれている成分あるいは物質は、耐容摂取量の設定にも大きく影響すると思われます。耐容摂取量の算出の際に、この点を考慮されたのでしょうか。
A.
 栄養素を含めた食品中の他の成分の交絡作用にかかる知見は少なく、この点にかかる評価を行うことができませんでした。PCB等の神経系への影響を与えうる食品中の汚染物質とその複合曝露に伴う影響に関して、知見が集積した時点で再評価が検討されるものと考えます。
Q6.
毛髪水銀濃度を使って摂取量を推定していますが、これは妥当なのでしょうか。
A.
 血中のメチル水銀はほぼ一定の割合で毛髪中に排泄されるため、毛髪中の水銀濃度を測ることにより、血中のメチル水銀の濃度を推定することが出来ます。このため、国際評価機関においても毛髪水銀濃度が曝露指標として有効であると認められているところです。
Q7.
胎児期におけるメチル水銀の低濃度曝露が中枢神経に影響するとのことですが、具体的にどのような影響があるのですか。
A.
 胎児への影響は、例えば、7歳児になった時、音を聞いてから耳から脳幹へ伝わる神経の反応が1/1000秒以下のレベルで遅れるといったもので、日常生活に大きな影響を与えるものではありません。
Q7-2.
Q7の他にどのような例がありますか。
A.
 胎児期に低濃度のメチル水銀の曝露を受けた7歳児において、臍帯血水銀濃度の増加に伴って、*運動機能、注意、視覚空間、言語、言語記憶の各テストの得点が相対評価4段階のうち下位の子供の割合が若干増加したとの報告があります。しかし、これらのテストの参加者は成績が下位であっても健康上問題はなかったとも報告されています。
 
上記のテストは、神経発達に低濃度の胎児期のメチル水銀曝露の影響があるかをみるために用いられました。内容は以下のとおり。
運動機能
微細運動に関する検査。限られた時間内に可能な限り早くボタンを押す。
注意
注意力に関する能力をみる検査。連続的に幾つかの動物の絵がモニター画面に提示される中、特定の動物の絵が現れた時に素早くボタンを押す。
視覚空間
視覚運動の能力をみる検査。示された幾つかの幾何学図形を描写した後、提示された図形を思い出しながら描く。
言語
言語能力に関する検査。様々な絵が描かれたカードが提示され、その絵の名前を答える。
言語記憶
記憶と学習能力に関する検査。12個の単語からなるリストを復唱し、5回繰り返す。その20分後に再度復唱する。
Q8.
「妊娠している可能性のある方」とは、具体的にどのような方を指すのですか。
A.
 「妊娠可能な女性すべて」という意味ではなく、「妊娠したかな、と思われる女性」という意味と考えてください。妊娠がわかるのはふつう妊娠2ヶ月以降です。胎児に多くの栄養分を運ぶために胎盤組織に大量の血液が流れるようになるのは、胎盤が完成する妊娠4ヶ月以降ですから、妊娠に気がついてから食生活に気をつければ、メチル水銀は体外に排泄されていくので、心配する必要はありません。
Q9.
「どんな魚を、週にどのくらいまでなら食べても安全」というような、消費者にわかりやすい説明はできないのですか。
A.
 今回の評価結果は、あくまでメチル水銀そのものについての科学的なリスクであり、個々の魚介類が含有するメチル水銀量等を評価したものではありません。「どんな魚を、どれくらい」といった食生活の指針や施策は、今回の評価を受けて、あらためてリスク管理機関(厚生労働省、農林水産省等)で検討されることになります。
 なお、水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項の見直しの検討については、厚生労働省のホームページに詳しく説明されていますので、そちらもご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/040817-2.html別ウインドウで外部サイトが開きます