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食品安全委員会e-マガジン 【読み物版】


食品安全委員会e-マガジン 【読み物版】


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 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】平成24年5月号
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 (今号の総文字数:約4,639字)

食品中の放射性物質の基準値が4月より新しい基準値になりました。
今月のe-マガジン【読み物版】では日常生活と放射線、放射線によ
る人体への影響といった放射線に関する基礎知識を集めてみま
した。
食品の新たな基準値については厚生労働省のホームページのリンク
を示しておりますので、そちらもご覧ください。

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【 目 次 】

1. 放射線のはなし
2. 委員随想(小泉直子委員長)

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1. 放射線のはなし
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◆放射線の基礎

〇放射能、放射性物質、放射線とは?

 放射能とは、放射線を出す能力のことをいいます。
さらに、放射線を出す能力を持つ物質が放射性物質、そこから出
るのが放射線です。
懐中電灯にたとえると、光が放射線、光を出す乾電池が放射能、
懐中電灯が放射性物質にあたります。

○放射線の種類

放射性物質から出る放射線といっても、色々な種類があります。
皆さんが、良く耳にする代表的なものとして、α線・β線・γ線
が挙げられると思いますが、それらの性質には大きな違いがあり
ます。
α線はヘリウムという元素の原子核の高エネルギーの流れ、β線
は高エネルギーの電子の流れで、粒子的な性質を持ちます。
γ線はこれらとは異なり、波長の短い高エネルギーの電磁波とい
うものです。多くの生物に必要な光(可視光線)は電磁波の一種
ですし、医療現場で活用されているX線はγ線と同じものです。
このように種類が異なる放射線ですが、物理的性質、例えば物質
を透過する能力にも大きな違いがあります。
ヘリウムの原子核という、粒子としてサイズが大きい性質をもつ
α線は、紙一枚で防ぐことができます。
それよりサイズが小さい電子からなるβ線は紙は透過しますが、
アルミニウム等の薄い金属版で防ぐことができます。
しかし、電磁波であるγ線の透過を防ぐためには、鉛や厚いコン
クリートの壁が必要となります。
同様に人の体に対する影響もそれぞれ違いがあり、また、同じ放
射線でも体の外から浴びる場合と放射性物質を取り込んでしまい
体内から浴びてしまう場合とではその影響に大きな違いがある場
合もあります。

〇放射線と放射能の単位とは?

ベクレル(Bq)は放射線を出す能力の強さを表す単位。
 シーベルト(Sv)は放射線にある人体への影響を表す単位をいい
ます。

 ベクレルは実効線量係数を乗じることにより
シーベルトに換算することができます。

注) 実効線量係数は、放射性物質の摂取後50年間(子供は70歳
まで)に受ける線量を計算するための換算係数です。放射線の種
類、放射線を受ける組織等によって人体への影響の大きさが異
なるため、放射性物質の種類(セシウム137など)、摂取経路(経
口、吸入)、年齢区分ごとに国際放射線防護委員会(ICRP)等で設
定しています。

 例えば、1kgあたり100ベクレルのセシウム137を含む食品を1kg
食べた場合の放射線による人体影響の程度は以下のとおりです。
 
 (成人の場合)    食べた量 実効線量係数
100ベクレル/kg × 1kg × 0.000013 
= 0.0013ミリシーベルト(mSv)

 【参考】
1Sv=1,000mSv(ミリシーベルト)=1,000,000μSv
(マイクロシーベルト)
1mSv        =  1,000μSv

◆日常の生活と放射線

 ヒトは、太古の昔より宇宙、大地、食品などから日常的に放射線
を受けてきました。その量は、年間1.5mSv程度です。
 なお、自然放射線の量は地質などにより異なるため、日本国内で
最大約0.4mSvの地域差があります。
 
〇もともとある自然放射線から受ける線量(年間)

 大気中から 0.4mSv
 宇宙線から 0.29mSv
 大地から  0.38mSv
 食品から  0.41mSv
 合計   約1.5mSv
  (出典:放射線医学総合研究所2007)

〇食品にも放射性物質が含まれています。例えばカリウムは、ナ
トリウムの排泄を促し血圧の上昇を制御するなど、健康を保つ
のに必要なミネラルで、動植物にとって必要な元素ですが、そ
の0.012%程度は放射性物質であるカリウム40(放射性物質)が
含まれています。

 
通常の食品に含まれる放射性物質(カリウム40)

(単位:Bq/kg)
 食品名   | 放射能 | 食品名  | 放射能
 ------------+----------+----------+-------
 干し昆布  | 2,000  | 魚    |  100
 干し椎茸  |  700  | 牛乳   |  50 
 お茶    |  600  | 米    |  30
 ドライミルク|  200  | 食パン  |  30
 生わかめ  |  200  | ワイン  |  30
 ほうれん草 |  200  | ビール  |  10
 牛肉    |  100  | 清酒   |   1
 
ATOMICA(財)高度情報科学技術研究機構から転載
(出典:(独)放射線医学総合研究所資料))

〇体の中にある放射性物質

人体の中にも常に放射性物質(放射性のカリウム・炭素等)が存在
し、日本人男性の場合では、合計で約7,900Bqと試算されていま
す。

 日本人男性に含まれる放射性物質
  炭素   3,599Bq
  カリウム 3,956Bq
  ルビジウム 267Bq
  その他    34Bq
   合計  7,856Bq

注)日本人の男性の体重を65.3kgとして換算

〇放射性物質が減る仕組み

 体内に入った放射性物質は、放射性物質の性質と排泄などの体の
 仕組みによって減少していきます。

  物理学的半減期(元の放射性物質の原子核の個数が全体の半分
に減少する期間)の例

  ・ヨウ素131は8日
  ・セシウム134は2.1年
  ・セシウム137は30年

  生物学的半減期(体内の放射性物質が元の半分に減る期間)の例
  (セシウム137の場合)

    ~1歳  9日
    ~9歳 38日
   ~30歳 70日
   ~50歳 90日

◆放射線による健康影響等

 〇放射線が私たちの健康に影響する基本的な仕組みは以下のとお
りです。

1. 放射線により細胞内のDNAの一部に傷ができる(2又は3へ)

→2. ほとんどの細胞は修復され元に戻る

→3. 中には修復されない細胞がある(4又は5へ)

→4. 修復されない場合、ほとんどは細胞死し、健康な細胞
に入れ替る
→細胞死が非常に多い場合、「確定的影響」として現れる

→5. 修復されない細胞のうち、ごくまれに突然変異を起こす
→これが普通の細胞に起こると「がん」として、生殖細胞
に起こると「遺伝的影響」として現れる

こうした仕組みにより起こる放射線による健康影響は、以下の2
種類に分けられています。

・「確定的影響」上記4.のケース(ただし細胞死が非常に多い場合
 のみ)

   比較的高い放射線量を受けた場合に現れる健康影響で、
   被ばく後、比較的短時間で影響が現れます。
   健康影響が現れ始める放射線量を「閾値」(「いきち」または
「しきいち」)と呼びます。
   →具体的には、「永久不妊」(急性被ばくの場合、閾値は男性
3500mSv~、女性は2500mSv)など

 ・「確率的影響」上記5.のケース

   比較的低い放射線量を受けた場合でも現れることがあり、放
射線量が高くなるにつれ、現れる確率が増えると考えられて
います。被ばく後、数年以上を経て影響が現れます。
   →具体的には、「がん」と「遺伝的影響」がこれに該当
    ただし、遺伝的影響は、ヒトの調査では見られていません

 (主な参考文献:放射線医学総合研究所「低線量放射線と健康影響」)

◆食品健康影響評価  

〇食品安全委員会は、昨年10月に「食品中に含まれる放射性物質
の食品健康影響評価」をとりまとめて厚生労働省に通知しました。
評価結果の主な内容は以下のとおりです。

 ・放射線による健康影響が見いだされるのは、生涯における追加
の累積の実効線量がおおよそ100mSv以上  

 ・そのうち、小児の期間については、感受性が成人より高い可能
性(甲状腺がんや白血病)

・追加の累積線量として100mSv未満の健康影響について言及する
  ことは、現在得られている知見からは困難

◆厚生労働省では、食品安全委員会の評価を受けて、今年の4月か
 ら食品中の放射性物質の新たな基準値を設定しています

4月からスタートした食品の放射性物質の新基準(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329_d.pdf

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2. 委員随想(測定値をどうみるか)
 食品安全委員会委員長 小泉直子
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ヒトが生きて行くためには、三大栄養素(たんぱく質、糖質、脂
肪)と微量元素(ビタミンやミネラル)が必要で、それらを動植物か
ら得ています。したがって、動植物が持っている栄養素や微量元素
などはヒトにも存在します。どのような元素がどれくらいあるかは、
臓器や組織を分析することでわかります。
この分析という技術は近年大きな進歩を遂げ、ほとんどの物質や
その構成元素の量を知ることができます。もちろん、ヒトの体の中
には、有益な元素だけでなく、有害とされている元素もあり、さら
に放射性物質も存在しています。 
したがって、存在だけに注目するのでなく、その必要量や逆に健
康に悪影響を及ぼす量を見極めて判断することが重要なのです。す
なわち、測定値が問題なのではなく、その測定値がヒトの健康に悪
影響を及ぼす量かどうかが問題なのです。
このことをしっかりと理解しておかないと、不要な不安や過信を
招くことになります。今回の原発事故から、「恐がりすぎず、過信
せず」が非常に重要だということを改めて強く感じております。


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