リスク評価と国際がん研究機関(IARC)の発がん性評価について

2023年7月14日公開 
(2024年1月11日更新)

1.「リスク評価(リスクアセスメント)について」

食品安全分野におけるリスク評価とは、食品に含まれるハザードの摂取(ばく露)によるヒトの健康に対するリスクを、ハザードの特性等を考慮しつつ、付随する不確実性を踏まえて、科学的に評価することを指します。

政府が適用する食品安全に関するリスクアナリシスの作業原則(CXG 62-2007)[1]によれば、リスク評価は、1)ハザードの特定、2)ハザードの特性評価、3)ばく露評価、4)リスク判定の4つの段階を含むべきであるとされています。

[1] Working Principles for Risk Analysis for Food Safety for Application by Governments[PDF形式:46KB]別ウインドウで外部サイトのPDFが開きます

リスクアセスメントの4つのステップ(食品安全委員会用語集より抜粋)

1)ハザードの特定

特定の食品又は食品群中に存在する可能性があり、人の健康に有害影響を及ぼすおそれがある生物的、化学的及び物理的な要因・物質を特定し、それらについての既知の科学的情報を整理すること。

2)ハザードの特性評価

摂取されたハザードに起因して生じる健康への有害影響の性質と程度を定性的及び/又は定量的に評価すること。食品添加物や残留農薬等の化学的な要因については、用量反応評価を実施し、これに基づき、健康影響に基づく指標値を設定する。

3)ばく露評価

人が食品を通じてハザードをどの程度摂取しているのか、定性的及び/又は定量的なデータから推定すること。食品中のハザードの含有量や食品の摂取量等から現実に近い摂取量を算出する。

4)リスク判定

ハザードの特性評価とばく露評価に基づき、ある集団における既知の、又は今後起こりえる健康への有害影響が生じる可能性とその程度について、付随する不確実性を含めて評価すること。

国際連合食糧農業機関(FAO)/世界保健機関(WHO)合同食品添加物専門家会議(JECFA)や食品安全委員会は、現実的なばく露状況を勘案してリスク評価を行っています。

コーデックス委員会等における「リスク分析」の枠組み

2.IARCの評価(発がん性分類)について

IARCは、がん研究分野における国際協力の促進や、がんの原因の特定により予防措置や病気の負担軽減に資することを目的とした、WHO(世界保健機構)傘下の研究機関です。ただしWHOはIARCについて、WHOとは独立して活動しているとしています。IARCの主な活動として、物質や作業環境などの様々な要因(ハザード)の発がん性についてのグループ1〜グループ3への分類があげられます※。この分類は、ハザードが発がん性を示す根拠があるかどうかによるものであり、発がん性の強さや摂取量(=ばく露量)による影響は考慮されていません。したがってヒトにおける実際の発がんの確率や重篤性を示すものではありません。

IARC自身も、「発がん性を理解するための最初の基本的な段階であるハザード特定のための分類である。ハザード特定の目的は、要因の特性及び害を及ぼす証拠の検討、すなわち、ある要因ががんを引き起こす可能性を特定することである。」と述べています。

ハザード(危害要因)とリスクの違い

表.IARCによる発がん性分類[2]
グループ 評価内容 発がん性を示す根拠の程度
Carcinogenic to humans
(ヒトに対して発がん性がある)
・ヒトにおいて「発がん性の十分な証拠」がある場合 または
・実験動物において「発がん性の十分な証拠」があり、かつ、ヒトにおいて発がん性物質としての主要な特性を示す有力な証拠がある場合
2A Probably carcinogenic to humans
(おそらくヒトに対して発がん性がある)
以下のうち少なくとも2つに該当する場合
・ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」がある
・実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある
・発がん性物質としての主要な特性を示す有力な証拠がある
2B Possibly carcinogenic to humans
(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)
以下のうち1つに該当する場合
・ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」がある
・実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある
・発がん性物質としての主要な特性を示す有力な証拠がある

Not classifiable as to its carcinogenicity to humans
(ヒトに対する発がん性について分類できない)
上記いずれにも該当しない場合

 [2] Preamble to the IARC Monographs on the Identification of Carcinogenic Hazards to Humans (amended January 2019) 別ウインドウで外部サイトが開きます

コラム

海外(英国)のWEBサイト[3]では、IARCの評価の理解のために、以下のような例えを紹介しています。

「IARCは、発がん性を有するかについて判断(ハザード特定)をしており、リスクの評価をしていません。(略)

これはとても技術的に聞こえるかもしれませんが、IARCは、ある物がどの程度強力にがんを引き起こすかを我々に伝えているのではなく、発がん性(の可能性(訳注))があるかないかだけを言っているのです。

バナナの皮を例に挙げてみましょう。バナナの皮は(滑って転ぶ(訳注))アクシデントの原因になり得ます。しかし、実際にはそんなことは頻回には起こりません(あなたがバナナ工場で働いていない限り)。そして、一般的に、あなたがバナナの皮で滑って転んでけがをすることは、車の事故ほど深刻ではありません。

しかし、IARCのようなハザード特定のシステムにおいては、どちらも事故の原因になることから、バナナの皮も車も同じカテゴリーに分けられます。」

 [3] Processed meat and cancer – what you need to know, October 26, 2015 Casey Dunlop別ウインドウで外部サイトが開きます