レッドミートと加工肉に関するIARCの発表についての食品安全委員会の考え方

 

平成27年11月30日

 

はじめに

 IARC(国際がん研究機関)は、10月26日、加工肉を「ヒトに対して発がん性がある」、レッドミート※を「ヒトに対しておそらく発がん性がある」と分類する、毎日50gの加工肉は大腸がんのリスクを18%増やすと発表しました。今回の発表は大腸がんとの因果関係に関してであり、食生活全体の中で食肉などをどう扱うべきについては含まれていません。今回の公表の詳細は、今後モノグラフ114号において公表するとしています。
 ※ 牛、豚、羊、馬などの哺乳類の動物の筋肉部分で、通常調理して摂取される。内臓は通常含まない。鶏肉などはホワイトミートと呼ばれる。

 

 食品安全委員会は、10月27日にFacebookで、この情報の見方には注意が必要との見解を示しましたが、改めてこの発表について詳しく解説します。

 

 IARCは、WHO(世界保健機構)傘下の、がん研究分野における国際協力の促進や、がんの原因の特定により予防措置や病気の負担軽減に資することを目的とした研究機関です。WHOはIARCについて、WHOとは独立して活動しているとしています。主な活動として、物質や作業環境などの様々な要因(ハザード)の発がん性をグループ1〜グループ4に分類しています※※が、この分類は、発がん性を示す根拠があるかどうかによるものであり、ハザードの強さや摂取量による影響が考慮されておらず、したがってヒトの健康に対する影響の大きさを推し量れるものではありません。WHOは10月29日、来年早期に、食事と病気の関係を評価するIARCとは別の委員会で、加工肉とレッドミートについて、最新の科学に基づいて議論を始めると発表しています。
 ※※ グループ1:「ヒトに対して発がん性がある」
          <ヒトにおいて「発がん性の十分な証拠」がある場合。>
    グループ2A:「ヒトに対しておそらく発がん性がある」
           <ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」があり、実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある場合。>
    グループ2B:「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」
           <ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」があり、実験動物では「発がん性の十分な証拠」があると言えない場合。>
    グループ3:「ヒトに対する発がん性について分類できない」
           <ヒトにおいては「発がん性の不十分な証拠」であり 実験動物において 発がん性の不十分な又は限定的な証拠 の場合。>
    グループ4:「ヒトに対しておそらく発がん性はない」
          <ヒト及び実験動物において「発がん性がないことを示唆する証拠」がある場合。>

 今回のIARCの発表については、各国の政府機関もコメントを発表しています。その内容としては、食肉や食肉加工品は、(欧米では摂り過ぎていることから)摂取量を適量とする必要はあるが、重要な栄養源であり、食生活全体の観点から捉えることが必要とするものが多いようです。(別添)
 日本の国立がん研究センターは、10月29日、日本人の赤肉・加工肉の摂取量は1日当たり63gで世界で最も低い国の一つであり、大腸がんの発生に関して、平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても小さいといえると発表しています。
(参考)国立がん研究センターHP「赤肉・加工肉のがんリスクについて」(2015年10月29日)
http://www.ncc.go.jp/jp/information/20151029.html別ウインドウで開きます(外部サイト)

なお、諸外国の肉類の国民1人・1日当たりの供給量(2011年)は、以下の通りですが、日本は欧米の半分程度となっています。
(この供給量から骨などの廃棄される部分や食べ残しなどを除いたものが消費量になります。)

 

                                                                   国民一人当たりの肉類の供給量

                                                                                                                                                          (単位:g/日)

アメリカ

ドイツ

フランス

イギリス

日本

322

241

242

226

123

農林水産省 平成25年度食料需給表 関連指標より

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001131797別ウインドウで開きます(外部サイト)

解説

 

IARCの評価には、どのような意味がありますか?

 

IARCの今回の発表は、赤肉及び加工肉がヒトに対する発がん性の危険因子(危害要因、ハザード)であるかどうかを評価した、言い換えれば発がん性を有するかどうか、発がん性との因果関係の科学的根拠の強さを判定したものです。摂取量も考慮しヒトに対してどの程度リスクがあるかを判断したものではなく、赤肉等のヒトの健康に対する影響の大きさを推し量れるものではありません。

ハザード(危害要因)とリスクの違い

海外(英国)のWEBサイト[1]では、IARCの評価の理解のために、以下のような例えを紹介しています。
 

「IARCは、発がん性を有するかについて判断(ハザード特定)をしており、リスクの評価をしていません。(略)
これはとても技術的に聞こえるかもしれませんが、IARCは、ある物がどの程度強力にがんを引き起こすかを我々に伝えているのではなく、発がん性(の可能性(訳注))があるかないかだけを言っているのです。
バナナの皮を例に挙げてみましょう。バナナの皮は(滑って転ぶ(訳注))アクシデントの原因になり得ます。しかし、実際にはそんなことは頻回には起こりません(あなたがバナナ工場で働いていない限り)。そして、一般的に、あなたがバナナの皮で滑って転んでけがをすることは、車の事故ほど深刻ではありません。
しかし、IARCのようなハザード特定のシステムにおいては、どちらも事故の原因になることから、バナナの皮も車も同じカテゴリーに分けられます。」

 

また、世界的に用いられているコーデックス委員会※の「リスク分析」の枠組みを用いてIARCの役割を説明すると、以下の図のように、IARCは、「ハザード特定」のみを発がん性に限って行っています。一方で、食品安全委員会や欧州食品安全機関(EFSA)などは、「ハザード特定」のみならず「ハザード特性評価」(発がん性を含む様々な毒性の評価)や「摂取量評価」を行い、リスク評価機関としてリスクアセスメント(リスク評価)全体を行っています。

コーデックス委員会等における「リスク分析」の枠組み

[山田友紀子氏作成資料より]

 

IARC自身も、自身の役割や発表するモノグラフについて以下のように述べており[2] 、IARCの判断は、それぞれの国の文脈において、摂取量等の情報を加味して検討される必要があります。次の項目以降で、日本においてIARCの判断をどのように捉えたら良いかについて解説します。

 

  IARC モノグラフ序文 一般原則及び手順(一部訳)

「(IARCが作成する)モノグラフは、国や国際機関によって、リスクアセスメントを行うこと、予防措置について決定を行うこと、効果的ながん対策プログラムを提供すること、そして公衆衛生の問題に対する代替オプションの中から決定することに使われます。
IARCのワーキンググループの評価は、利用可能なデータに基づく発がん性の証拠に関する科学的定量的判断です。これらの評価は、公衆衛生に関する判断に用いられる情報のある一部分のみを指摘します。
公衆衛生に関するオプションは、国ごとや状況によって異なり、社会経済的側面や国家の優先順位を含む多くの要素と関連しています。そのため、規制や法制度に関して与えられる推奨はなく、それらは個別の政府や他の国際機関の責任です。」

 


※コーデックス委員会:消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間機関。国際食品規格の策定等を行っている。

 
 

今回の評価の解釈には、注意が必要です。

 これまでIARCは、単一の化学物質や、アルコール飲料、喫煙、「石炭ガス製造に従事」といった作業環境など、比較的均質でより直接的に発がんと関連があるものを評価しています。今回の「赤肉」「加工肉」のように、栄養成分を含む化学物質の集合体である食品を評価したのは、極めて異例であるといえます。

 

 栄養成分を含む食品そのものの評価は、その解釈に注意が必要です。現在、食品安全委員会では、じゃがいも等の食品の加熱時に生じるアクリルアミドについて評価を行っていますが、アクリルアミドを評価の対象としており、フライドポテト自体を評価対象とはしていません。フライドポテト自体が危害要因なのではなく、フライドポテトに含まれるアクリルアミドが危害要因だからです。また、栄養成分を含む食品の摂取は、健康維持のために必要であり、過剰摂取だけでなく、摂取不足についても考慮しなければなりません。

 

 加えて、疫学研究によるヒトにおける知見の解釈において、因果関係の推論は、様々な要因(交絡因子)が原因と結果に複雑に関係しあっているため非常に難しく、さらに各国の食生活や人種などの差も慎重に考慮しなければなりません。

 

 したがって、今回の評価は、「肉に含まれる成分が、発がん性と関連がある」、または「赤肉・加工肉の過剰摂取が、発がん性と関連がある」と解釈されるべきです。

※アクリルアミドとは:炭水化物を多く含む食材を120℃超の高温で加熱した際に、アスパラギン(アミノ酸の一種)と還元糖(ぶどう糖等)が反応して生じる物質。

 

どのような食品も、健康への影響は量次第です。

 国立がん研究センターによると、日本人において、日々の食生活に欠かせない穀類や、生体の維持に必須である食塩についても、胃がんの増加との関連性が指摘されています。[3]

 

 また、発がん性の他にも、塩分の過剰摂取と高血圧・心血管疾患、炭水化物の過剰摂取と肥満・糖尿病、アルコールの過剰摂取と肝障害・肝硬変・肝細胞がんのように、特定の食品の過剰な摂取が特定の疾患のリスクを高めることは、広く知られています。

栄養成分を含む生活に欠かせない食品であっても、過剰摂取は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病やがんの危険性を増加させます。どのようなものでも食べすぎはよくないということに、今一度気を付けましょう。

食品の良い面・悪い面の両方を意識しましょう。

 肉は、たんぱく質、ビタミンB群、鉄、亜鉛など、私たちの健康維持に必要な栄養成分を含んでおり、肉を極端に避けると栄養素が偏ってしまいます。一方で、肉を過剰に摂取すると、高脂肪・野菜不足となってしまう可能性があります。何かを避けたり、多く食べたりすることは、食生活全体のバランスを崩してしまいます。

食事はバランスが重要

 どのような食品にも体へのメリットがあるとともに、デメリットやリスクもあります。食品の安全性や健康への影響を考えるときには、その食品のメリットやデメリットの一部のみに注目するのではなく、全体のバランスを考えることが必要です。

大腸がんの要因について

これまでどおりバランスのよい食生活を送りましょう。

 以前から、食の欧米化や肉類の摂取と大腸がんの関係は、疫学研究などで指摘されており、新しい情報ではありません。[4][5]

 

 日本人については、国立がん研究センターの研究によると、大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても小さい、とされています。[6]

 

 また、2013年の国民健康・栄養調査によると、日本人の摂取量は、赤肉は50g、加工肉は13gで、世界的に見て最も摂取量の低い国の一つであり、平均的摂取の範囲であれば大腸がんのリスクへの影響はほとんど考えにくいとされています。

 

 現在、バランスの良い食生活をおくっている人が、無理に食生活を変えると、かえって悪影響が現れます。これまでどおり、厚生労働省・農林水産省の「食事バランスガイド」などを参考にしながら、バランスの良い食生活を送るように気を付けましょう。

(参考)
厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html別ウインドウで開きます(外部サイト)
農林水産省HP  http://www.maff.go.jp/j/balance_guide/別ウインドウで開きます(外部サイト)

[1]Processed meat and cancer – what you need to know, October 26, 2015 Casey Dunlop
http://scienceblog.cancerresearchuk.org/2015/10/26/processed-meat-and-cancer-what-you-need-to-know/別ウインドウで開きます(外部サイト)
[2] IARC, Preamble to the IARC Monographs, A. GENERAL PRINCIPLES AND PROCEDURES
http://monographs.iarc.fr/ENG/Preamble/currenta2objective0706.php別ウインドウで開きます(外部サイト)
[3] 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究グループ 「化学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」エビデンスの評価
http://epi.ncc.go.jp/cgi-bin/cms/public/index.cgi/nccepi/can_prev/outcome/index別ウインドウで開きます(外部サイト)
[4]国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報サービス 大腸がん
http://ganjoho.jp/public/cancer/colon/別ウインドウで開きます(外部サイト)
[5]井上真奈美、田島和雄,固形癌の疫学 連載第6回大腸がんのリスクファクター
http://epi.ncc.go.jp/images/uploads/inoue.pdf別ウインドウで開きます(外部サイト)
[6]情報提供「赤肉・加工肉のがんリスクについて」2015年10月29日国立研究開発法人国立がん研究センター
http://www.ncc.go.jp/jp/information/20151029.html別ウインドウで開きます(外部サイト)
 

 

 

IARCの発表に対する各国政府機関のコメント

(別添)

IARCの発表に対する各国政府機関のコメント

 

○フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)(10月26日)
ANSESは、バランスの取れた食事をすることによって肉の摂取は多くても1週間に500gに制限し、様々な動物性タンパク源(卵、肉、魚)、様々な種類の肉を摂取するよう現在も推奨している。がんは複雑な疾患で、ある特定の食品の摂取によるリスクについては、特に栄養学的側面からその食品の便益とのバランスを考慮しなくてはならない。
https://www.anses.fr/fr/content/viandes-rouges-viandes-transform%C3%A9es-et-cancers-point-sur-la-nouvelle-classification-du-circ別ウインドウで開きます(外部サイト)

○アイルランド食品安全庁(FSAI) Q&Aを発表(10月26日)
Q:レッドミートは全て避けるべきか?
A:その必要はない。赤身肉(lean meat)の適量摂取は、健康的な食事において大事である。
Q:適量とは?
A:1日に必要なレッドミートの量の目安は、体の大きさによって異なる。おおよそ手のひらと同じ大きさの分量である(平均で約100g)。
https://www.fsai.ie/content.aspx?id=14285別ウインドウで開きます(外部サイト)

○スペイン消費食品安全栄養庁(AECOSAN)(10月26日)
IARCの報告書の手法は、既存の科学文献及び公表論文を評価する学際研究によるものである。リスクを明確化する科学的試験は行っていない。「モノグラフ」はハザードを特定するための一つのプログラムであり、リスクを評価するものではない。これは、作用物質への実際のばく露とその発がん性の関連性が考慮されていないことを意味する。実際のリスクを評価することが必要であることから、欧州連合(EU)のリスク評価機関である欧州食品安全機関 (EFSA)などからの報告書が待たれる。
またAECOSANは、変化に富み、適量でバランスの取れた食事の便益に留意することを勧める。果実、野菜、オリーブオイル、豆類、魚などに富み、適量の肉を摂る地中海料理などの便益は、科学的に証明されており、スペインの栄養勧告はこれらに基づいている。 
http://aesan.msssi.gob.es/AESAN/web/notas_prensa/AECOSAN_carne.shtml別ウインドウで開きます(外部サイト)

 
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