研究情報詳細

評価案件ID cho99920151402
評価案件 レチノイン酸の濃度変化を引き起して催奇形性を示す化学物質のスクリーニング法の開発と催奇形性発症の分子機構の解明(研究課題番号1402)
資料日付 2016年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  我々の生活において、農薬や食品添加物等のばく露によって引き起こされる催奇形性発症の原因を、組織中のレチノイン酸濃度の変動に影響を与える合成・代謝系酵素活性に焦点を当て、催奇形性を示す化学物質の構造的特徴と発症の種差の原因及び分子機構を明らかにすることを目的として研究を実施した。
 レチノイン酸合成酵素RALDH 及び分解酵素CYP26 発現アデノウイルス発現系を完成させた。これらの活性測定のための最適な培養細胞を調べ、内因性のこれら酵素の発現が少ないHeLa 細胞を用いることとした。代謝物を測定するためにULPC-MC/MCを用いたが、基質濃度は5 mM が限界量であることが判明した。今回、入手可能な19 種類のアゾール系農薬と代表的なアゾール系抗菌薬(ケトコナゾール)を用いた活性阻害実験で薬物代謝酵素P450 においては、強い阻害が認められた。しかし、CYP26A1 については、タラロゾールのみで比較的強い阻害が認められたものの(活性阻害定数IC50:2 μM)、他のものは阻害しなかった。また、ケトコナゾールもCYP26A1 活性を強く阻害する(IC50:0.55 μM)と報告されているが、本実験では10 μM でも全く阻害が認められなかった。アゾール化合物によるこれら酵素の遺伝子発現への影響について、mRNA 量の変動を調べた。レチノイン酸ほどではないが、いくつかのアゾール化合物によって、CYP26A1 遺伝子の転写活性化が認められ、特にタラロゾールで強かった。逆にRALDH では、いくつかのアゾール化合物によって、約半分ほどの転写活性化の抑制が認められた。これらの結果から、アゾール系農薬による催奇形成発症は、レチノイン酸分解酵素であるCYP26 活性阻害により、組織のレチノイン酸濃度が高くなり、その後この酵素が誘導されて逆にレチノイン酸濃度が低下することが原因であると予測していたが、組織のレチノイン酸濃度については、その合成分解酵素活性の阻害以外に酵素発現量の変動によってもたらされる可能性が考えられた。
 組織におけるレチノイン酸濃度はULPC-MC/MCによる測定が難しいため、本研究ではレポーターアッセイ法を応用して濃度変動を測定する試みを行った。そのためにレチノイン酸にて強く転写活性されるHoxA1、HoxA2 及びCYP26A1 遺伝子のプロモーター遺伝子を単離し、レポータープラスミド構築を完了した。しかし、HoxA1、HoxA2 レポータープラスミドでは強い誘導は認められなかったが、CYP26A1 レポータープラスミドでは強い誘導が認められた。より感度を上げるために人工的なRXR 結合配列をこのプラスミドに挿入し、10 倍ほど誘導が強いレポータープラスミドを作成した。このレポータープラスミドとレチノイン酸合成酵素RALDH 及び分解酵素CYP26 発現アデノウイルス発現系を併用することにより1-10 nM 濃度にてレチノイン酸の濃度変化を検出可能なレポーターアッセイ法を樹立した。さらに、これをアデノウイルスに組み、マウスに投与して発現するか検討したところ、肝臓及び脳にてレポーター活性が検出された。タラロゾール(5 mg/kg)及びWIN18446(4 mg/body)を ICR 妊娠マウスに投与すると、奇形胎児数は有意に増加した。特に、鼻の形成不全及び口唇裂が、両群で高頻度に認められた。その他、散発的に眼瞼、水晶体の形成異常、多指症、短尾・曲尾が両群で認められた。
 本研究では、化学物質によるレチノイン酸合成酵素RALDH 及び分解酵素CYP26 活性阻害評価システムの構築および組織における非常に低いレチノイン酸濃度変動を測定するためのCYP26A1レポータープラスミドの構築に成功し、これらを併用することにより1-10 nM濃度にてレチノイン酸の濃度変化の測定に成功すると同時に、化学物質投与による奇形胎児発症のモデルを構築することにも成功した。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
添付資料ファイル