研究情報詳細

評価案件ID cho99920141405
評価案件 肝マクロファージの機能特性に基づいた肝毒性の新規評価手法の構築と緻密化(研究課題番号1405)
資料日付 2015年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  肝には約20%の肝固有のマクロファージが存在し、肝機能の恒常性維持に係わるとともに、その機能異常は化学物質による肝障害に一次的あるいは二次的に影響を与えている。しかし、肝マクロファージの機能特性に基づいた肝毒性の評価手法の構築や、肝毒性の発現メカニズムは解明されていない。近年、病変部位に出現するマクロファージをM1 とM2 に分けて評価する概念が提唱された(M1/M2 分極化)。M1は、炎症初期に誘導され、高い貪食活性を示し、一方、M2 は、線維化を導き組織の修復に関与する。
 本研究では、化学物質誘発性肝障害を評価する新たな手法を構築する目的で、多彩な機能特性を現す肝マクロファージに着目し、その機能を見極める検出系を確立するとともに、その検出系を用いて、化学物質の肝毒性発現メカニズムを、M1/M2 分極化に基づいて解明することを目的とした。
 まず、肝マクロファージの基本性状を得るために、発生過程の肝マクロファージの特性を解析した。その結果、胎子では貪食活性の高いCD68 M1 マクロファージが、新生子から成体では肝常在マクロファージであるCD163M2 クッパー細胞が現れ、肝組織構築に係わることが分かった。次に、肝恒常性に係わるクッパー細胞の役割を解析した。リポソームを投与すると、それを貪食したCD163 クッパー細胞が活性化し、AST とALT が減少した。一方、クロドロネート投与によるクッパー細胞枯渇下では、AST とALT は増加した。クッパー細胞は肝逸脱酵素のクリアランスに関わることが分かった。すなわち、肝毒性においてクッパー細胞の機能状態を把握しておくことの重要性が示された。
 化学物質による肝障害の解析において、チオアセトアミド(TAA)投与の小葉中心性肝細胞傷害では、M1 機能に関わるINF-γ、TNF-α、IL-6と、M2 機能に関わるIL-4 の発現が、組織傷害に先立ちすでに増加しており、これに続いて、CD68M1 とCD163M2 マクロファージが傷害部位に誘導され、同時に修復に係わるTGF-β1 やIL-10 が上昇した。CD68M1 は、MHC クラスII とIba1 を、CD163M2 は、CD204 とGal-3 を表出することが分かった。クロドロネート前投与によるマクロファージ枯渇下でのTAA 病変を解析したところ、初期では肝小葉中心部の凝固壊死の形成が遅延し、修復期では異栄養性石灰沈着が生じ、治癒が遷延した。また、α-naphthylisothiocyanate (ANIT)投与によるグリソン鞘の胆管上皮傷害では、MHC クラスII 発現マクロファージが病変形成に極めて重要であることが示された。クロドロネート前投与によるANIT 病変では、胆管周囲の線維化が遅延した。肝毒性では小葉中心部とグリソン鞘領域の傷害において異なるマクロファージが機能することが分かった。ラットマクロファージ株HS-P を用いた in vitro でのマクロファージ機能解析により、M1 因子であるINF-γ、あるいはM2 因子であるIL-4 を添加することで、in vivo で生じるマクロファージ機能の現象が再現できることが分かった。HS-P は試験管内での肝毒性メカニズム解析において有用であることが示された。マクロファージのM1/M2 分極化に基づいた肝毒性病変の評価手法は、薬物誘発性病変の新たな病理発生機序の解明につながると考える。これは、また、肝毒性評価において用いられる肝機能パラメーターの緻密化と精度の高いend-point を導くことができることから、食品健康影響評価でのより科学的なADI(一日摂取許容量)設定が可能となる。本課題で得られた成績はその基礎情報を提供する。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
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