研究情報詳細

評価案件ID cho99920141302
評価案件 核内受容体作用と酵素誘導解析を基盤とした、化学物質による肝肥大の毒性学的評価に関する研究(研究課題番号1302)
資料日付 2015年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  肝肥大および肝細胞肥大は、化学物質のばく露によりしばしば認められるが、その発現機序や毒性学的意義は明確ではなく、それらを毒性影響とすべきか否かは議論の余地がある。本研究の目的は、毒性試験情報を用いたデータ解析と、酵素誘導に関連する核内受容体活性化作用を評価するin vitro 試験を行なうことで、肝肥大および肝細胞肥大の毒性学的特徴を明らかにすることである。特に、これまで経験的に言われてきた肝細胞肥大と酵素誘導との関連性を明確にすることを主たる目的とした。
 まず、(独)製品評価技術基盤機構で公開されているHESS データベースおよび食品安全委員会で公開されている農薬評価書を利用して構築したラット毒性試験データベースを利用して、肝細胞肥大および肝肥大の毒性学的特徴の抽出を試みた。その結果、HESS データベースおよび農薬評価書を用いたいずれの場合においても、中心性肝細胞肥大と甲状腺関連所見の関連性が認められた。関連が認められた甲状腺所見は、薬物代謝酵素誘導と強く関連するものであることから、中心性肝細胞肥大と薬物代謝酵素誘導との関連性が強く示唆された。一方、農薬評価書を用いた解析により、中心性肝細胞肥大とびまん性肝細胞肥大との間で関連する毒性所見に違いが認められ、両者の発現機序や毒性学的意義に違いがある可能性が示唆された。さらに、肝肥大や肝細胞肥大は必ずしも肝がんの初期病変ではないことが示された。
 次に、小葉中心性肝細胞肥大を起こす化学物質をHESS データベースおよび農薬データベースから選出し、酵素誘導と関連するラット核内受容体(AHR、PXR、CAR、PPARα)に対する作用をin vitro 試験で評価した。その結果、上記核内受容体活性化作用と小葉中心性肝細胞肥大の間に強い関連性が認められた。また、農薬を用いた評価において、中心性肝細胞肥大とびまん性肝細胞肥大を起こす農薬の間で上記核内受容体活性化作用に差が認められた。以上の結果は、上述のデータ解析で得られた結果と一致し、中心性肝細胞肥大は薬物代謝酵素誘導と関連していること、また中心性肝細胞肥大とびまん性肝細胞肥大では毒性学的特徴が異なることを支持している。
 環境および食品汚染物質でありげっ歯動物で肝肥大を誘発するperfluorooctanoic acid (PFOA)による肝肥大におけるCAR の寄与を、マウス個体および培養細胞を用いて解析した。その結果、PFOA はCAR活性化作用を有すること、またPFOA による肝肥大におけるCAR の寄与はPPARαと同程度であることが示唆された。
 以上、本研究では、毒性試験データベースを用いた情報・統計学的解析により、肝肥大(肝重量増加)および肝細胞肥大は肝がんの初期病変ではないことが強く示唆された。さらに、情報・統計学的データ解析ならびにレポーターアッセイや酵素誘導評価などのin vitro 試験を用いた解析により、中心性の肝細胞肥大の多くは、薬物代謝酵素誘導と強く関連していることが実証された。また、中心性とびまん性の肝細胞肥大では発現機序や毒性学的意義が異なる可能性が示された。酵素誘導を伴う肝細胞肥大は、肝臓の適応反応であり、可逆性の反応であるとされている。したがって、酵素誘導試験や核内受容体活性化作用評価の実施は、肝細胞肥大の発現機序や毒性学的影響を推定する上で有用と思われる。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
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