研究情報詳細

評価案件ID cho99920151403
評価案件 熱帯性魚類食中毒シガテラのリスク評価のための研究(研究課題番号1403)
資料日付 2016年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  シガテラはシガトキシン類を原因物質とする世界最大規模の魚類による自然毒食中毒で、主に熱帯・亜熱帯の海域で採取された魚類を喫食することで発生する。シガトキシン類(CTXs)はGambierdiscus 属の渦鞭毛藻(微細な藻類)が産生し、食物連鎖によって渦鞭毛藻から藻食動物、肉食魚へと伝搬される。そのため、魚類の毒性は、魚種、生息海域によって大きく異なり、さらには個体間の差も著しい。シガテラの多発地域は南太平洋の島嶼国で、日本では沖縄・奄美地方から毎年発生報告があるが、近年本州から九州にかけての太平洋沿岸域で採取された魚類による事例の報告も散見される。本研究では、シガテラのリスク評価に必要な科学的情報を収集するために、以下の項目について取組んだ。
1)シガテラ発生実態の解析
 シガテラに特化した食中毒調査票を作成し、沖縄県で発生した食中毒等事例において調査した。その結果、本調査票がシガテラの食中毒調査実施時に有益であることが示され、沖縄県において併用されることになった。本調査票はシガテラ以外の自然毒による食中毒調査票を作成する際のプロトタイプとなるものである。さらに、国内で発生したシガテラについて症状及び原因魚等の傾向に関して有用な知見を得ることができた。
2)シガトキシン類の解析手法開発
 沖縄で漁獲されたシガテラの原因魚であるバラフエダイ、バラハタ等の魚肉をLC-MS/MS 分析した結果、CTXs の含量や組成と生物学的データ(魚種、採取地、体長、体重、年齢)との関係性が見いだされた。またCTXs 含量の多い試料は、入手が極めて困難なCTXs 標準品調製用として使用した。
3)沿岸海域の生物における汚染実態の解明
 本州沿岸域で採取した魚類、藻類、藻食動物についてLC-MS/MS によるCTXs 分析を実施したが、いずれの試料からもCTXs は検出されなかった。海外試料としてトリニダード・トバーゴ、台湾、タイ、フィリピン及びフィジーの市場で入手した魚類試料についてもCTXs 分析した結果、フィジー産の3 試料のみからCTXs が検出された。
4)シガトキシン類の毒性評価
 天然試料から調製されたCTX1B とCTX3C について、マウスへの腹腔内投与と経口投与での毒性を検討した。両物質とも投与経路による毒性に大きな違いはないのが特徴であった。CTX1B を投与したマウスの致死時間は24 時間以内であったが、CTX3C は数日後に死亡するものもあった。そのためCTX3C を含む試料の毒性を評価する際には、過小評価を防ぐために24 時間以上の経過観察が必要と考えられた。
5)シガトキシン類のリスク評価、リスク管理アプローチの検討
 シガテラのリスク評価に関する情報をFAO、EFSA 及びフランスから収集した。FAO 及びEFSA ではデータ不足が指摘されており、フランスの評価は地域限定的データに基づくため、日本への適用は慎重に検討する必要がある。沖縄県で発生した疫学データを基に暫定的ARfD(急性参照用量)を推定した。また、リスク管理に関する情報をFAO、EU、米国及び豪州から入手し、日本への適用の可能性を検討した。
 2 年間という期間であったが、シガテラのリスク評価に必要な科学的情報を得ることができた。また、食中毒調査票など、今後も継続的に科学的データを収集するシステムを構築することができた。さらに、シガテラのリスク評価に必要な課題等についても提案した。このように評価に必要なデータを収集し、枠組みを作ることができたが、評価の際の不確実性を少なくするために、継続的な疫学データの収集が必要と思われる。なお、本課題で実施した手法や結果、課題は、将来必要となる他の自然毒のリスク評価にも応用できるものである。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
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