研究情報詳細

評価案件ID cho99920131103
評価案件 肝臓キメラマウスを用いたヒト型代謝プロファイルの外挿によるリスク評価手法の開発(研究課題番号1103)
資料日付 2014年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  薬物代謝酵素の特性がヒトとげっ歯類では大きく異なることから、マウスやラットなどの実験動物を利用してリスク評価を行う場合、ヒトではその有害物質がどのように代謝されるかを考慮することが重要である。このような問題を克服するため、本研究ではヒトと同等の薬物代謝能を持つヒト肝臓キメラマウスを用いて有害物質の毒性評価を行い、新たなリスク評価手法の確立を目指した。
 雄性TK-NOGマウスの腹腔内にガンシクロビル(GCV)を投与し肝傷害を誘導した。GCV投与一週間後、肝傷害の程度を血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性で評価し、凍結ヒト肝細胞(1.0×106細胞)を肝臓内に移植した。肝細胞移植の成否は血中ヒトアルブミンの上昇により確認した。このように作製したヒト肝臓TK-NOGマウスを用いて、2種類の有機リン農薬(アセフェート及びクロルピリホス)と肥育ホルモン剤(酢酸メレンゲステロール)について薬物動態解析と毒性評価を行った。
 ヒト肝臓TK-NOGマウス及び対照マウスへのアセフェート経口投与(300 mg/kg)試験では、親化合物、代謝物メタミドホスのいずれの血漿中濃度にも差は認められなかった。一方、クロルピリホス(30 mg/kg)経口投与試験では、0.5及び2時間後の親化合物、主要代謝物trichloropyridinol (TCPy) の血漿中濃度がヒト肝臓TK-NOGマウスにおいて有意に上昇していた。しかし、クロルピリホスオクソン体はいずれのマウスからも検出されなかった。ヒト肝臓TK-NOGマウスを用いた酢酸メレンゲステロールの薬物動態試験の結果から、ヒトにおける酢酸メレンゲステロールの消失は、げっ歯類に比べ緩徐であると推定された。また、本研究において、マウスには存在量が少なく、ヒト肝臓TK-NOGマウスではヒトと同レベルに存在する生化学マーカーを見出し、有機リン農薬の投与によりその生化学マーカーが変動することを明らかにした。
 ヒト肝臓TK-NOGマウスと対照マウス間で有意差が認められないアセフェートでは、一般的な安全係数により十分な「種差の考慮」を行えるが、酢酸メレンゲステロールやクロルピリホスのように血漿中濃度に有意な差が現れる化合物については慎重な「種差の考慮」が必要と思われた。ヒト肝臓TK-NOGマウスを用いることにより、安全係数による「種差の考慮」の妥当性を加味したリスク評価が可能となった。また、本研究ではヒト肝臓TK-NOGマウスにおける「種差」を利用し、薬物代謝研究以外にも用途を拡げることに成功した。ヒト肝臓TK-NOGマウスの血液中に産生分泌される生化学マーカーの量はヒト標準量に匹敵し、その作用が有機リン農薬の摂取によって変動することを本研究で初めて明らかにした。これは経口摂取した有機リン農薬が血中に移行し、そこでヒト肝臓由来マーカータンパク質と直接作用する「ヒトを外挿した毒性モデル」と位置づけられ、現在、有機リン農薬による中毒作用と本マーカータンパク質変動の関連を調べており、新たなリスク評価手法として確立を目指している。
 本研究結果により、ヒト肝臓TK-NOGマウスが日本の食品や医薬品の安全性評価に有用な基盤実験動物モデルであることが明らかとなり、今後、広く利用される可能性が示された。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
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