研究情報詳細

評価案件ID cho99920151407
評価案件 食品中ヒ素の代謝物ジメチルモノチオアルシン酸の発がん性に関する研究(研究課題番号1407)
資料日付 2016年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  食用海産動植物には、種々のアルセノシュガーが主要な有機ヒ素化合物として存在し、代謝物としてジメチルアルシン酸(DMAⅤ)が生成されることが明らかにされている。一方、我々はラットを用いた実験で、DMAⅤの膀胱発がん性を明らかにし、ヒ素の発がん性の実験的な証明の突破口を見出している。本研究は、DMAⅤの生体内代謝物であるジメチルモノチオアルシン酸(DMMTA)をはじめとした有機ヒ素化合物の体内動態、遺伝毒性及び発がん性を明らかにすることを目的とし、種々の検討を行った。
 はじめに、DMMTA のin vivo における遺伝毒性及び発がん性の有無について検討するために、ラット膀胱におけるDMMTA の直接的な影響を検討できる投与試験系を確立した。さらに、in vivo 変異原性及び発がん性を臓器特異的かつ包括的に評価可能なF344 gpt delta ラットを用いたDMMTA のラット膀胱粘膜に対する影響について検討した結果、対照群に比してDMMTA がラット膀胱粘膜に対し細胞増殖を惹起したが、in vivo 変異原性を有さないことが明らかとなった。
 次に、マウスのヒ素発がん低感受性とDMMTA 産生との関連について明らかにするために、C57BL/6 マウス及びF344 ラットにDMAV及びiAsIIIを飲水投与し、尿中及び糞中におけるヒ素代謝物を比較検討した結果、ラット・マウス共にヒ素投与によってDMMTA が産生されていることが明らかになった。また、尿中DMMTA の濃度はラット・マウス間で有意な差はみられなかったことから、ヒ素膀胱発がん感受性の種差は遺伝的背景の違いによるものであることが強く示唆された。
 また、DMMTA をはじめとした有機ヒ素化合物の詳細な代謝経路について、無細胞in vitro系を用いて検討した結果、ヒト腸内細菌叢ばく露によりDMAVよりDMMTA が生じること、DMAIIIが硫黄転移酵素によりDMMTAに容易に変換されること、DMMTA 及びDMAIIIはCYPなどのモノオキシゲナーゼによりDMAⅤへ変換されること、DMMTA はグルタチオン(GSH)と反応し抱合体を形成した後にDMAIII、硫化水素、ジメチルメルカプトアルシンなどに変換されることが明らかとなった。
 以上の結果から、DMMTA による肝毒性発現にGSH とCYP が関与することが示唆された。さらに、生体試料分析における標準物質としての高純度DMMTA を合成するために、加硫化剤による新規合成・精製法を開発し、高純度DMMTA を安定的に回収することが可能となった。
 本研究で得られたDMMTA の代謝活性化機構、毒性と変異原性に関する知見ならびにDMMTAなどのヒ素化合物の新規合成法の開発は食品に由来する有機ヒ素の健康影響評価に必要不可欠で、大いに貢献できると期待される。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
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