研究情報詳細

評価案件ID cho99920141303
評価案件 化学物質により誘発される肝肥大の毒性学的評価手法の確立と今後の問題点(研究課題番号1303)
資料日付 2015年3月31日
分類1 --未選択--
分類2 --未選択--
事業概要  肝重量の増加および肝細胞肥大として定義される肝肥大は、げっ歯類およびイヌを用いた毒性試験において最も一般的な投与に起因した変化である。この化学物質で誘発される肝肥大は毒性評価において肝毒性あるいは肝発がん性の早期のキーイベントであるか否か議論されてきた。
 一方、肝細胞は内部あるいは外部因子からのストレスに対して生体恒常性維持する機能を有していることがよく知られており、この状態は生体の望ましい適応反応であると考えられている。
 本研究は、日本の毒性評価において化学物質で誘発された肝肥大が、生体の適応反応か、毒性(悪影響)かを判断するための科学的な考え方を示すことを目的とし、食品安全委員会が公表している農薬評価書から肝肥大に関する項目の抽出や解析を中心としてまとめた。
 検索した多くの農薬にとって肝肥大はげっ歯類およびイヌで最も一般的な投与起因性の変化であったが、毒性試験に用いた全ての動物種で肝肥大のみ誘発する化学物質は稀で、多くの農薬が肝肥大だけでなく、肝細胞の障害や肝脂肪化、胆道系の変化、色素沈着等を引き起こしていた。興味あることに、肝肥大発現用量はこれらの肝障害の誘発用量と同程度あるいは高い用量であったことから、肝肥大は肝障害に先立ち生ずる事象ではないと考えられた。肝肥大を示す40 以上の農薬ではイヌにおいても甲状腺重量増加等の変化が認められ、肝肥大に伴う二次的影響としての甲状腺の変化はげっ歯類だけでなくイヌにおいても認められる変化であると考えられた。
 また、Constitutive Androstane/Active Receptor ノックアウトマウス(CARKO)を用いて肝腫瘍誘発量のトリアゾール系農薬3剤を投与する2段階発がん実験を行ったところ、肝肥大はCAR を経由しないが、肝腫瘍形成にはいずれの剤もCAR が重要な役割を果たしていたことから、肝腫瘍形成において肝肥大は早期キーイベントではないと考えられた。アソシエート因子とするのが適切かもしれない。また検索したトリアゾール系農薬の肝腫瘍形成はマウスCAR 活性化によるものであり、ヒトには外挿されない変化である可能性が推察された。CAR は現在その他の農薬を用いた同様の実験が進行中である。
 肝肥大の考え方については静岡県立大学の吉成浩一教授のグループと共同でとりまとめを行った。要約すると、肝細胞が外的因子に対して生体の恒常性が維持されている範囲内の肝肥大(肝細胞肥大および肝重量増加)は適応性変化であり、毒性影響ではない。同時に生体の恒常性保持機能の限界を越し,破たんを来した場合の肝細胞肥大は毒性と判断すべきである。具体的には以下の変化を伴う肝肥大は毒性影響の可能性を考える起点になる:(1)肝細胞の壊死と関連する指標や炎症性変化、(2)胆道系の変化、(3)脂質代謝系の変化、(4)色素沈着、(5)タイプや部位の異なる肝細胞肥大の誘発を指す。

(注)この報告書は、食品安全委員会の委託研究事業の成果について取りまとめたものです。
   本報告書で述べられている見解及び結論は研究者個人のものであり、食品安全委員会としての見解を示すものではありません。
事業名 食品健康影響評価技術研究
実施機関 食品安全委員会
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