【読み物版】 [生活の中の食品安全−安心して生卵を食べられる国−(食品安全委員会委員長 佐藤 洋) その1 ]  平成29年2月23日配信


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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】
 [生活の中の食品安全 −安心して生卵を食べられる国−(食品安全委員会委員長 佐藤 ) その1]  平成29年2月13日配信
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今月のe-マガジン【読み物版】・「生活の中の食品安全」では、私たちの日々の食生活にとって身近な「生卵」について取り上げます。

今号は、当委員会の佐藤洋委員長より「安心して生卵を食べられる国」をお送りし、次号でQ&Aをお届けします。

 

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1.はじめに 米国の目玉焼きは「両面」焼き −桜咲く米国のホテルで−

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数年前、3月末に米国へ出張しました。最初の目的地であるジョージア州の州都・アトランタ市に着き、ホテルに入ると、意外にも庭の満開の桜に迎えられ、嬉しくなったことを覚えています。

さて、ホテルの朝食時のことです。シェフに目玉焼きを頼みました。米国では一般に目玉焼きを「フライドエッグ」(fried egg)と言うのをご存知かと思いますが、私の注文を受けたシェフは、油をひくというよりは、卵の中身が浸るくらいの油を入れたフライパンに卵を割り入れ、それを、さっとひっくり返して両面焼きにしたのでした。確かにフライド(油で揚げた)だなと思いました。もちろん、日本語でいう目玉に当たる黄身は白身で霞んでいます。

鶏卵は、サルモネラ属の細菌(※)(Salmonella Enteritidis (略称「SE」)など)に汚染されていることが稀にあります。その食中毒を防ぐために、米国では、卵を十分に加熱して食べることが強く推奨されています。目玉焼きも、特にリクエストがなければ、十分加熱されるように、片面焼きでなく両面焼きにしているのでしょう。

ちなみに、日本で普通に見られる片面焼きのものは、「サニーサイドアップ」(sunny-side up)と呼ばれます。黄身を太陽にたとえて、「お日様が上向きに」といったような意味合いでしょう。

なお、目玉焼きの両面焼きにもいろいろあって、「卵はいかがいたしましょうか」(How would you like your egg?)と聞かれたら、最低三通りあるそうです。(A)「over easy」(両面焼き・黄身が半熟)、 (B)「over medium」(両面焼き・黄身の半分が固まっている)、(C)「over hard」(両面焼き・黄身がしっかり固まっている)。

 

 ※ 動物の消化管に生息する腸内細菌で、その一部は病原性を示す。よく知られているものとしてサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella Enteritidis)など。食中毒の主症状としては、激しい腹痛、下痢、発熱、おう吐。

 

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2.米国疾病管理予防センター(CDC)の公表について

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昨年(2016(平成28)年)7月、米国疾病管理予防センター(CDC)は、「サルモネラ症を防いで食品を安全に摂取する方法」を公表しました。食品安全委員会では、その内容をホームページで紹介するとともに、日本としてどう受け止めればよいかについてもフェイスブックで発信しました。一部、概要を紹介します。

・米国CDCは、米国では毎年、サルモネラ属菌による食中毒の患者が100万人発生していると推定しています。そこで、「サルモネラ症を防いで食品を安全に摂取する方法」を公表しました。

・「自分自身と家族がサルモネラ症にかかる可能性を低減する」方法として、「手や調理器具の洗浄」、「交差汚染のないように、生の食肉、家きん類の肉(鶏肉など)、魚介類及び卵とRTE食品(喫食前に加熱を要しない調理済み食品)の分離」、「加熱調理(正確な温度による加熱調理)」、「冷却」などを徹底するよう呼びかけています。

・また、「生や軽く加熱調理しただけの卵は喫食しないこと」も呼びかけられています。

この点は、「生卵」を食べることの多い私たち日本人には少し気になります。しかし、これは、米国ではもともと生卵を食べる習慣がないことや、卵の衛生管理について、日本は生を食べることを前提にしており、米国とは違うことに留意する必要があります。

 

≪参考≫

食品安全委員会;米国疾病管理予防センター(CDC)、サルモネラ症を防いで食品を安全に摂取する方法を公表

http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04520360104

内閣府食品安全委員会公式Facebook;CDCがサルモネラ症を防いで食品を安全に摂取する方法を公表しました〜卵の取扱いについての話です〜(2016年9月26日)

https://www.fsc.go.jp/sonota/sns/facebook.html

 

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3.卵を「生」で食べる日本人は世界では少数派−サルモネラ食中毒のリスクは?−

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日本人は、生卵を食べる習慣がありますが、実は世界では少数派です。

私の勤務先近くにも、卵かけご飯を提供している店があります。その店では、生卵はテーブルのかごに盛られており、自分で割ってご飯にのせて食べます。このように、日本では、ごく自然に生卵を食べていますが、安全の面はどうなっているのでしょうか。 

 

■鶏卵の汚染の経路 −on eggとin egg−

鶏卵が汚染される経路は次の二つです。

(1) on egg汚染; 鶏の消化管等に存在する菌が、糞便と一緒に卵殻表面に付着する場合

(2) in egg汚染; 感染している鶏の卵巣や卵管が汚染され、卵の形成過程で内部に取り込まれる場合 

通常の流通過程では、パックに詰められる前に、卵殻の洗浄・殺菌が実施されているので、(1)のon egg汚染は除去されます。それに対して、(2)のin egg汚染は、卵内部の汚染なので、卵殻を洗浄・殺菌しても取り除かれませんが、養鶏場において親鶏がサルモネラ属菌に感染しないようにする努力がなされています。

 

■日本の生卵の汚染割合:0.0029%程度 −極めて低いがゼロではない−

では、実際の汚染状況はどうなのでしょうか。

食品安全委員会が実施した研究事例では、日本全国から集めた市販の卵約10万個のうち、汚染されていたのは3検体でした。さらに、2万個の卵から汚染が検出されなかったとのデータも併せ、汚染の確率を0.0029%程度と推定しています。極めて低い割合となっています。

ただし、汚染割合が低くても、リスクがまったくないわけではありません。

厚生労働省の統計によれば、最近でも「卵類及びその加工品」を原因とした食中毒が発生しています。

生卵を安全に食べるには、それなりの努力が必要です。

 

≪参考≫

食品安全委員会;市販鶏卵におけるSalmonella Enteritidis汚染の実態解明とリスク評価法への活用について

https://www.fsc.go.jp/fsciis/technicalResearch/show/cho99920111004

 

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4.生卵を安全に食べるための保管や調理のポイント

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それでは、生卵を安全に食べるために私たちができることを以下にお示しします。

 

【保管】

■ 表示で「賞味期限」、「保存方法」をしっかり確認。

1999(平成11)年の食品衛生法施行規則の改定により、殻つき卵の賞味期限(※)は、「生食」しても問題が生じない期限を表示することとされました。例えば、今頃ですと(冬季。12〜3月。)、産卵後57日以内とされています。ただし、実際には、パック後2週間(14日)程度を、年間を通して賞味期限としている場合が多いようです。

  ※ この賞味期限は、「冷蔵保存」(10℃以下)が前提です。

■ 購入した卵は、すぐに冷蔵庫へ入れること。

■ 冷蔵庫から取り出した後に、調理のために割卵(卵を割ること)した卵は、室温下で放置しないようにする。特に卵黄と卵白を撹拌混合した状態で放置しないこと(攪拌すると細菌が増えやすくなるという報告があります。)。

 

【調理】

■ 賞味期限が過ぎた卵は、サルモネラ属菌対策のため、十分に加熱して(75℃以上、1分以上)、食べることをおすすめします。なお、ヒビが入っている卵は、しっかり加熱して食べてください。

■ 割卵後はすばやく調理する。

■ 生卵を食べる場合、割卵は食べる直前にすること。できるだけ早く食べきること。

■ ご高齢の方、乳幼児(2歳以下)、妊娠中の女性、免疫機能が低下している方は、生卵を避け、できる限り十分加熱した卵料理をおすすめします。

 

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5.おわりに

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卵に限らず、食べ物には健康に危害を加える要因が存在します。しかし、正しい取扱いをして食べることによって、そのリスクをほとんど無いと考えられるレベルにまで下げることができます。

消費者としても、保管や調理を正しく行うことは非常に大切であり、生卵を安心して食べられる国であり続けることにつながっていきます。

 

≪参考≫

・食品安全委員会;サルモネラ属菌による食中毒について

https://www.fsc.go.jp/sonota/salmonella.pdf

・食品安全委員会;食品健康影響評価のためのリスクプロファイル 〜鶏卵中のサルモネラ・エンテリティディス〜(改訂版)

https://www.fsc.go.jp/sonota/risk_profile/risk_salmonella.pdf

・厚生労働省;卵によるサルモネラ食中毒の発生防止について(別添3「家庭における卵の衛生的な取扱いについて」)

http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1007/h0722-1.html別ウインドウで開きます(外部サイト)

・農林水産省;卵の扱いかた

http://www.maff.go.jp/j/fs/handle_3.html別ウインドウで開きます(外部サイト)

 

【注】本稿は、食品安全委員会季刊誌「食品安全」39号(平成26年7月号)の「委員の視点」を、e-マガジン【読み物版】として加筆修正して発信しています。

~~◆食品安全委員会季刊誌「食品安全」39号も、ぜひ、ご覧ください。◆~~

https://www.fsc.go.jp/sonota/kikansi/39gou/39gou_7.pdf

 

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