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食品安全委員会e-マガジン【読み物版】[魚介類に含まれるメチル水銀その1] (2014.1.24)


食品安全委員会e-マガジン【読み物版】[魚介類に含まれるメチル水銀その1] (2014.1.24)

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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】[魚介類に含まれるメチル水銀その1] 平成26年1月24日配信 
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今月のe-マガジン【読み物版】は、魚介類(クジラ類を含む。以下同じ。)に含まれるメチル水銀につ
いてお送りします。
魚介類は良質なタンパク質や健康に良いと考えられるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエ
ン酸(DHA)等の高度不飽和脂肪酸を他の食品に比べて多く含むとともに、微量栄養素の摂取源でも
あり、健康な食生活にとって不可欠な栄養上の特性を持っています。
一方、近年の研究報告では、低濃度のメチル水銀摂取が胎児に影響を与える可能性を懸念する報告が
あり、妊娠中の魚介類の摂食には一定の注意が必要とされています。
今号では、魚介類に含まれるメチル水銀についてご説明します。
また、次回の【読み物版】では、魚介類に含まれるメチル水銀に関するQ&Aを予定しています。

※EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)
 魚類、特にイワシ、マグロなど海産魚の脂質に多く含まれる脂肪酸の一種。
 血管障害を予防するほか、アレルギー反応を抑制する作用などがあるとされています。

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1.メチル水銀とは
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■メチル水銀と水俣病
水銀は自然界に普遍的に存在する重金属ですが、特にメチル水銀などの有機水銀は中枢神経に障害を
起こすことが知られています。日本では1956年頃、化学工場からの廃液に含まれていたメチル水銀
を蓄積した魚を食べた熊本県水俣湾周辺住民に水俣病が発生しました。水俣病は、手足感覚障害、運
動失調などの中枢神経症状を特徴としています。1965年には新潟県の阿賀野川流域で第二水俣病が発
生しました。
2013年10月19日に熊本で開催された国際連合環境計画(UNEP)の政府間交渉委員会において、水俣病
と同じような被害を繰り返してはならないという決意を込めて、水銀を使用した製品の製造と輸出入
を規制する「水銀に関する水俣条約」(the Minamata Convention on Mercury)が採択・署名されまし
た。

■魚介類にメチル水銀が含まれる理由
私たちが平均的に摂取するメチル水銀は、約8割が魚介類の水産物の摂食に由来します。魚介類の体
内には自然界の食物連鎖を通じて微量のメチル水銀が蓄積されています。その含有量は一般に低いの
で健康に害を及ぼすものではありませんが、マグロやクジラ等の一部の魚介類については、食物連鎖
を通じた濃縮を経てメチル水銀濃度が比較的高いものも見受けられます。

■メチル水銀の毒性は
ヒトも含め、動物に対するメチル水銀の毒性のもっとも典型的なものは中枢神経系に対する影響です。
メチル水銀は、体内に入った後、消化管から血中へと吸収され、肝臓や腎臓を経由して糞尿として排
泄されるほか、毛髪にも含まれて体外に出されます。妊婦の場合は、体内に入ったメチル水銀の一部
が胎盤を通過して胎児に移り、その胎児の機能的発育に影響を及ぼす可能性があります。WHO(世
界保健機関)は疫学調査の結果から、メチル水銀について暫定耐容週間摂取量(PTWI)*1を体重1kgあ
たり水銀換算で1.6μg/kgと設定しています。

*1:耐容摂取量は、意図的に使用されていないにもかかわらず、食品中に存在したり、食品を汚染す
る物質(重金属、かび毒など)に設定されます。耐容週間摂取量は、食品の摂取を通じて体内にとり入
れてしまう汚染物質に対して、人が許容できる一週間当たりの摂取量です。

メチル水銀による水俣病では、一週間あたり1.75mg以上のメチル水銀を摂取した場合、感受性の高
い人で症状が出始め、もっと摂取量が上がれば症状が出る人の割合が増えます。

■低濃度のメチル水銀の健康影響
水俣病のような非常に高濃度のメチル水銀の摂取とは別に、自然環境中に元来存在する程度の低濃度
のメチル水銀がハイリスクグループの神経発達に与える微細な影響について、近年国際的な研究が進
んできました。近年の研究報告では、低濃度の水銀摂取が胎児に影響を与える可能性を懸念する報告
があり、妊娠中の魚介類の摂食には一定の注意が必要とされています。厚生労働省は2003年6月に
妊婦の方などを対象として、水銀を比較的多く含有する一部の魚介類などを食べることについての注
意事項を公表しましたが、胎児や乳児へのリスクに対する懸念から、2004年7月に食品安全委員会に
評価の要請がなされました。

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2.メチル水銀の食品健康影響評価
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■ハイリスクグループの設定
母親の血液中のメチル水銀は胎盤を通過して胎児に移行します。さらに胎児はメチル水銀を排出でき
ないことから、胎児の血液中のメチル水銀濃度は母体血中よりも高くなります。また、胎児期は脳等
の中枢神経系の成長が最も速い時期であり、メチル水銀による影響を受けやすい時期と考えられます。
これに対して、乳児のメチル水銀の摂取は主に母乳からとなりますが、その濃度は通常の食品等に比
べて低いとされています。また、小児は成人と同様にメチル水銀を排泄することができ、中枢神経系
も既に成人並みに成長していることから、メチル水銀の影響も成人と同様であると考えられます。
このことから、胎児のみをハイリスクグループとすることが妥当と判断しました。

■評価の根拠になったデータは
食品安全委員会では、北大西洋のフェロー諸島と西インド洋のセイシェル諸島における疫学調査のデ
ータを中心に胎児の健康影響を評価しました。特にセイシェル諸島では魚の摂取量がと多く(日本人
の約2倍)、メチル水銀の摂取量の観点から日本に近いデータと考えられます。フェロー諸島のコホ
ート研究では、胎児期のメチル水銀曝露が、7歳児及び14歳児の神経生理学、神経心理学上の検査結
果と有意な関連性があるという結果が得られましたが、セイシェル諸島の研究では、母親のメチル水
銀曝露量と小児の神経、認知、行動への影響は関連性がないとの結果でした。どちらの研究も1980
年代から10年以上かけて行われたもので信頼性も高く、日本におけるリスク評価にも十分使用でき
ると判断しました。

■メチル水銀の健康影響は
評価の根拠となった疫学研究において、胎児期にメチル水銀に曝露された場合に出てくる健康影響は、
音を聞いた場合の反応が千分の一秒以下のレベルで遅れるようになるという程度のもので、水俣病の
ような重篤な症状とは異なります。
食品安全委員会は2005年8月、胎児をハイリスクグループとし、妊娠している方(もしくは妊娠して
いる可能性がある方)を対象に、メチル水銀の耐容週間摂取量を体重1kgあたり水銀に換算して
2.0μgとする答申を出しました。

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3.妊婦の方の魚介類摂取の注意点
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■食品安全委員会の評価を受けて、厚生労働省から妊婦に向けて魚介類の摂食量についての注意喚起
が出されています。一般的に、魚介類に含まれるメチル水銀濃度は、0.4ppm(mg/kg)以下ですが、食
物連鎖の高い位置をしめる魚類の一部では、5ppmを超えることもあり、高齢、大型の肉食性の種類の
魚やクジラ類は、比較的高濃度のメチル水銀を含んでいることから、キンメダイ、メカジキ、クロマ
グロ、メバチマグロなどは一回に食べる量を80gとして、妊婦の方は1週間に1回までを目安に食べ
ることを勧めています。
魚介類は良質なタンパク質や健康に良いと考えられるEPAやDHA等の高度不飽和脂肪酸を他の食
品に比べて多く含むとともに、カルシウムなどの微量栄養素の摂取源でもあり、健康な食生活にとっ
て不可欠な栄養上の特性を持っていますので、積極的に食べてほしい食材です。妊婦のみなさんは、
魚の種類などに気を付けて、バランスの良い食生活を送ってください。
なお、男性や妊娠していない女性におかれては、これらの魚種であっても通常の食べ方をして差支え
ありません。

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【お知らせ】
食品安全行政に皆さんの声を!「食品安全モニター募集中」
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ご協力をお願いします。
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